人生ブレーンバスター(2)
2007年 02月 08日
(1)
2
次の日、絵里は学校を休んだ。
「昨日の今日でこれかぁ。思ったよりも進行が早いみたいだね。呼び出すのも無理だろうし、彼女の自宅でケリをつけるしかないか?」
「でも、大丈夫なの?部屋がめちゃくちゃになったりしないのかな?」
「ポルターガイストなんて事例もあるくらいだしねぇ。私はこの世の物には影響を与えられないが、相手はどうなのかな。人を取り殺すくらいの力があるなら、そのくらいやってのけそうなものだけど。だが、事態は緊急を要する。乗り込むしかないだろうな、彼女の自宅へ」
授業中に行くのも不自然だろうから、放課後に彼女の家にお見舞いという形で行くことにした。その日は、授業が終わるまでが妙に長く感じた。
私は今まで、霊の存在を感じたり見たりすることは出来ても、それに対処することは全く出来なかった。知人が取り憑かれているのが見えても、ただ成り行きに任せて見ていることしか出来なかったのだ。だけど……。
(今は何か出来るかもしれない)
彼は「これからもお世話になる予定だから、今のうちに貸しを作っておかなきゃな」などと勝手なことを言っているが、それでも私は嬉しかった。本気で彼に対する態度を改めないといけないかもしれない。でも、授業中でも全裸だ。無理だ。
放課後、私たちは絵里の自宅までやってきた。母親にお見舞いに来たことを伝え、彼女の部屋に上がらせてもらう。私が入ってくるのを見てベッドから体を起こした絵里は、昨日に比べ目に見えてやつれていた。
「辛そうだね……」
「うん……病院に行ったら、多分疲れのせいだって。最近、部活とか忙しかったからね。いい休息になるかも」
「うん。たまにはゆっくり休んだ方がいいよ」
当然、疲れのせいでないことが私には分かっていた。彼女の後ろには、あいかわらず『あいつ』がいる。彼に軽く目配せをすると、「ふふん」と自信ありげに笑った。
「よーし、そんじゃ一丁やってみますかね。君は友人との小粋なトークでも楽しんでいてくれたまえ!」
私の前に進み出て、絵里の背後に憑いている霊に向かいファイティングポーズをとる。私に尻が、絵里の顔のちょうど正面に股間が向けられているという最悪の構図だ。絵里に霊感がなくてよかったと、このときは本気で思った。というか、いい加減にしたらどうなのか。
「そういえば、今日学校でね……」
変に会話が止まるのも不自然だと思って絵里に話題を振った瞬間、彼は『あいつ』に向けて飛びかかった。次の瞬間弾き飛ばされた。多分、その時の私は目が丸くなっていたはずだ。
私の背後に吹っ飛んで行った彼を追うように振り向く。そこには壁しかなかったが、その向こうから彼の声が聞こえてきた。
「は、はは、なるほどね。魂が吹っ飛んで行きそうな感覚だ。痛いというのとは少し違う、生きているときには経験しなかったダメージだよ。それにしても……」
隣室との境になっている壁から、上半身だけがぬっと姿を現した。
「壁はすり抜けるのに床や地面はすり抜けないと言うのも不思議なものだ。この現象は何を意味している?私はこの地上に縛り付けられているが故に成仏できないと言うことか?なぁ、彼女は何に縛り付けられているんだろうね?」
「大丈夫なの!?」
「心配ない。それより、私に話しかけない方がいいぞ。最悪、大切な友人を一人失う」
はっとして振り向く。
「由紀……どうしたの?」
絵里が心配そうに声をかけた。まずい、今の行動は絶対にまずい。話し始めたと思ったらいきなり壁のほうを向いて「大丈夫なの!?」いやー、引くわ。
「あ、なんでもないの!ただの勘違い。気にしないで」
自分でもよく意味の分からない言い訳をする。絵里は明らかに腑に落ちないという顔をしていたが、私は強引に別の話題に転換してその場をしのぐことに腐心した。その間も彼は何度か『あいつ』に突撃を仕掛けたが、そのたびに吹き飛ばされていた。5回目の突撃が終わった辺りで、彼は「ギブアップだよ」とへろへろの声でつぶやき、床に仰向けに倒れこんだ。もちろん、全裸で。せめてうつ伏せにしろ。
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次の日、絵里は学校を休んだ。
「昨日の今日でこれかぁ。思ったよりも進行が早いみたいだね。呼び出すのも無理だろうし、彼女の自宅でケリをつけるしかないか?」
「でも、大丈夫なの?部屋がめちゃくちゃになったりしないのかな?」
「ポルターガイストなんて事例もあるくらいだしねぇ。私はこの世の物には影響を与えられないが、相手はどうなのかな。人を取り殺すくらいの力があるなら、そのくらいやってのけそうなものだけど。だが、事態は緊急を要する。乗り込むしかないだろうな、彼女の自宅へ」
授業中に行くのも不自然だろうから、放課後に彼女の家にお見舞いという形で行くことにした。その日は、授業が終わるまでが妙に長く感じた。
私は今まで、霊の存在を感じたり見たりすることは出来ても、それに対処することは全く出来なかった。知人が取り憑かれているのが見えても、ただ成り行きに任せて見ていることしか出来なかったのだ。だけど……。
(今は何か出来るかもしれない)
彼は「これからもお世話になる予定だから、今のうちに貸しを作っておかなきゃな」などと勝手なことを言っているが、それでも私は嬉しかった。本気で彼に対する態度を改めないといけないかもしれない。でも、授業中でも全裸だ。無理だ。
放課後、私たちは絵里の自宅までやってきた。母親にお見舞いに来たことを伝え、彼女の部屋に上がらせてもらう。私が入ってくるのを見てベッドから体を起こした絵里は、昨日に比べ目に見えてやつれていた。
「辛そうだね……」
「うん……病院に行ったら、多分疲れのせいだって。最近、部活とか忙しかったからね。いい休息になるかも」
「うん。たまにはゆっくり休んだ方がいいよ」
当然、疲れのせいでないことが私には分かっていた。彼女の後ろには、あいかわらず『あいつ』がいる。彼に軽く目配せをすると、「ふふん」と自信ありげに笑った。
「よーし、そんじゃ一丁やってみますかね。君は友人との小粋なトークでも楽しんでいてくれたまえ!」
私の前に進み出て、絵里の背後に憑いている霊に向かいファイティングポーズをとる。私に尻が、絵里の顔のちょうど正面に股間が向けられているという最悪の構図だ。絵里に霊感がなくてよかったと、このときは本気で思った。というか、いい加減にしたらどうなのか。
「そういえば、今日学校でね……」
変に会話が止まるのも不自然だと思って絵里に話題を振った瞬間、彼は『あいつ』に向けて飛びかかった。次の瞬間弾き飛ばされた。多分、その時の私は目が丸くなっていたはずだ。
私の背後に吹っ飛んで行った彼を追うように振り向く。そこには壁しかなかったが、その向こうから彼の声が聞こえてきた。
「は、はは、なるほどね。魂が吹っ飛んで行きそうな感覚だ。痛いというのとは少し違う、生きているときには経験しなかったダメージだよ。それにしても……」
隣室との境になっている壁から、上半身だけがぬっと姿を現した。
「壁はすり抜けるのに床や地面はすり抜けないと言うのも不思議なものだ。この現象は何を意味している?私はこの地上に縛り付けられているが故に成仏できないと言うことか?なぁ、彼女は何に縛り付けられているんだろうね?」
「大丈夫なの!?」
「心配ない。それより、私に話しかけない方がいいぞ。最悪、大切な友人を一人失う」
はっとして振り向く。
「由紀……どうしたの?」
絵里が心配そうに声をかけた。まずい、今の行動は絶対にまずい。話し始めたと思ったらいきなり壁のほうを向いて「大丈夫なの!?」いやー、引くわ。
「あ、なんでもないの!ただの勘違い。気にしないで」
自分でもよく意味の分からない言い訳をする。絵里は明らかに腑に落ちないという顔をしていたが、私は強引に別の話題に転換してその場をしのぐことに腐心した。その間も彼は何度か『あいつ』に突撃を仕掛けたが、そのたびに吹き飛ばされていた。5回目の突撃が終わった辺りで、彼は「ギブアップだよ」とへろへろの声でつぶやき、床に仰向けに倒れこんだ。もちろん、全裸で。せめてうつ伏せにしろ。
by rei_ayakawa
| 2007-02-08 17:11
| 人生プロレス技シリーズ