青い霧、白い朝
2006年 05月 06日
具体的には、そうであるな。
なかなか理解していただくのは難しいやも知れぬが、我輩におこった空前絶後の大事件を諸君らに話そうとしているのであるよ。まあまあ、落ち着いて聞きなされい。どこから話し始めればいいかというと迷うところではあるのだが、やはり我輩とあやつの出会いからはじめるのがよかろうと思うわけであるよ。
まずはこれでも食べたまえよ、とあやつは言ったのであった。その時我輩は真に空腹であって、それはもう涎ぶぎゃーといった状況だったのであるよ。我輩は目の前に出された握り飯を貪り食った。貪り尽くした。
気がつけば、あやつのことも食っていた。
この時の我輩の慌てようは諸君らの想像を絶するものであったと、我ながら思うよ。慌てすぎるあまり、便器に頭を突っ込んでそのまま倒立してしまったくらいであるからな。期せずして、我輩は人間の肉を食らってしまったのだ。この狼狽ぶりも至極当然のことと言えよう。
だが、それ以上に危機的な状況が我輩に襲い掛かった。便器から抜けないのだよ、頭が。しかし、我輩は人間を食してしまった罪深き存在であるからして、天からこのような仕打ちを受けるのも致し方のないことなのである。このまま死ぬのもまた悪くはあるまい、と我輩は覚悟を決めたのであるよ。そして我輩は、便器の中で力尽きたのであった。
目が覚めると、我輩は便器の国にいた。
何を言っているのか分からないと思うが、我輩だってあの状況をどう表現するべきか困惑しているのだよ。道往くものが総て便器な訳であるからね。道端では数個の便器が集まって談笑しておる。道を往くのは便器ばかりであるが、たまに鈍器も混じっておる。はて、これがあの世というものか。と我輩は考えたのであるが、まさか死後の世界が便器の世界だとは誰が予想したであろうか。いやはや、全く持って分からぬこともあるものだ。と妙に感心してしまったのであるよ。
しかも、便器どもは我輩の姿を見るなり「なんで人間がここにいるんだ!」「てめぇ、いつも汚物ばかり俺たちにつっこみやがって」「人間を殺せ!人間を殺せ!」などと好き勝手に言い出し、我輩は便器の集団に追われる立場になってしまったのだよ。我輩も道を往く鈍器を手にとって便器どもと必死に戦ったが、如何せん連中は硬い上に数が多い。ついには逃げ切れずに、袋小路に追い詰められてしまったのである。すわ、万事休すか。
「お待ちなさい!」
天から何者かの声が降り注いだ。
「べ、便器ゴッド様!」
「便器ゴッド様だ!」
どうやら、この声の主は便器ゴッドなるものらしい。察するに、便器なのであろう。
「皆の物、人間に恨みがあるのは分かりますが、相手はたったの一人です。複数で囲い殺すなどということをしては、便器族の威厳に関わります。そなたたちの中から代表者を一人選び、こやつと一対一の決闘をさせるのです」
便器ゴッドがこのように言うと、便器どもは大いに湧き立った。そして、一個の便器が我輩の前に進み出た。洋式である。
「俺にはウォッシュレットもついてるぜ」
なんだかよく分からない脅し文句を吐かれてしまったが、どうやらこやつが我輩の相手となるようだ。まさか、便器と決闘するはめになるとはおもわなんだが、こうなってしまっては致し方がない。我輩は覚悟を決めた。
便器と我輩がにらみ合う。我輩の手には鈍器。手に汗が滲む。敵は一般的な洋式便器ではあるが、その重量で体当たりを食らったら目も当てられん。初撃をもらってはならない。慎重に間合いを測らなければ……。
便器が動いた。我輩も動いた。それでえーと、ああしたりこうしたりしてとにかく勝った。
そのように筆舌に尽くしがたい苦労があって、ようやく我輩は便器の国から脱出し、こうして現世に帰ってこられたのであるよ。だから、たかが万引きくらいであまり細かいことを言わないでもらいたい。
なかなか理解していただくのは難しいやも知れぬが、我輩におこった空前絶後の大事件を諸君らに話そうとしているのであるよ。まあまあ、落ち着いて聞きなされい。どこから話し始めればいいかというと迷うところではあるのだが、やはり我輩とあやつの出会いからはじめるのがよかろうと思うわけであるよ。
まずはこれでも食べたまえよ、とあやつは言ったのであった。その時我輩は真に空腹であって、それはもう涎ぶぎゃーといった状況だったのであるよ。我輩は目の前に出された握り飯を貪り食った。貪り尽くした。
気がつけば、あやつのことも食っていた。
この時の我輩の慌てようは諸君らの想像を絶するものであったと、我ながら思うよ。慌てすぎるあまり、便器に頭を突っ込んでそのまま倒立してしまったくらいであるからな。期せずして、我輩は人間の肉を食らってしまったのだ。この狼狽ぶりも至極当然のことと言えよう。
だが、それ以上に危機的な状況が我輩に襲い掛かった。便器から抜けないのだよ、頭が。しかし、我輩は人間を食してしまった罪深き存在であるからして、天からこのような仕打ちを受けるのも致し方のないことなのである。このまま死ぬのもまた悪くはあるまい、と我輩は覚悟を決めたのであるよ。そして我輩は、便器の中で力尽きたのであった。
目が覚めると、我輩は便器の国にいた。
何を言っているのか分からないと思うが、我輩だってあの状況をどう表現するべきか困惑しているのだよ。道往くものが総て便器な訳であるからね。道端では数個の便器が集まって談笑しておる。道を往くのは便器ばかりであるが、たまに鈍器も混じっておる。はて、これがあの世というものか。と我輩は考えたのであるが、まさか死後の世界が便器の世界だとは誰が予想したであろうか。いやはや、全く持って分からぬこともあるものだ。と妙に感心してしまったのであるよ。
しかも、便器どもは我輩の姿を見るなり「なんで人間がここにいるんだ!」「てめぇ、いつも汚物ばかり俺たちにつっこみやがって」「人間を殺せ!人間を殺せ!」などと好き勝手に言い出し、我輩は便器の集団に追われる立場になってしまったのだよ。我輩も道を往く鈍器を手にとって便器どもと必死に戦ったが、如何せん連中は硬い上に数が多い。ついには逃げ切れずに、袋小路に追い詰められてしまったのである。すわ、万事休すか。
「お待ちなさい!」
天から何者かの声が降り注いだ。
「べ、便器ゴッド様!」
「便器ゴッド様だ!」
どうやら、この声の主は便器ゴッドなるものらしい。察するに、便器なのであろう。
「皆の物、人間に恨みがあるのは分かりますが、相手はたったの一人です。複数で囲い殺すなどということをしては、便器族の威厳に関わります。そなたたちの中から代表者を一人選び、こやつと一対一の決闘をさせるのです」
便器ゴッドがこのように言うと、便器どもは大いに湧き立った。そして、一個の便器が我輩の前に進み出た。洋式である。
「俺にはウォッシュレットもついてるぜ」
なんだかよく分からない脅し文句を吐かれてしまったが、どうやらこやつが我輩の相手となるようだ。まさか、便器と決闘するはめになるとはおもわなんだが、こうなってしまっては致し方がない。我輩は覚悟を決めた。
便器と我輩がにらみ合う。我輩の手には鈍器。手に汗が滲む。敵は一般的な洋式便器ではあるが、その重量で体当たりを食らったら目も当てられん。初撃をもらってはならない。慎重に間合いを測らなければ……。
便器が動いた。我輩も動いた。それでえーと、ああしたりこうしたりしてとにかく勝った。
そのように筆舌に尽くしがたい苦労があって、ようやく我輩は便器の国から脱出し、こうして現世に帰ってこられたのであるよ。だから、たかが万引きくらいであまり細かいことを言わないでもらいたい。
by rei_ayakawa
| 2006-05-06 21:02
| 空想