写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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カテゴリ:旅行記( 5 )

旅行記 汽車


生まれて初めて汽車に乗った。

先頭から煙がシュッポシュッポ出ているあれだ。

この辺りでは未だに現役らしい。

窓の外には山が流れる。

世界は肌寒い。

「すみません、そこよろしいですか?」

声をかけてきたのは、額の禿げあがった中年男性だった。

「ああ、どうぞ」

シートは四人が向い合せで座れるようになっている。

彼は僕の膝の上に腰掛けた。

「あ、そこは、ダメ……」

「あら、そうですか」

男は腰を浮かせて、そのまま対面の席に座った。

僕は再び窓の外の景色に視線を戻した。

「どちらまで行かれるんです?」

少し、不意を突かれた気分になった。

「ああ、いえ、別に……これといっては決めていません。とりあえず、終点まで行ってみようかな、と」

「終点は、遠いですよ」

「ええ、そうでしょうね」

「わかっているのに行くのですか!?信じられない!」

彼はいかにも信じられなさそうに大きく目を見開いた。

「いや、そんな大げさに驚かれるようなことでも……」

「いやいや、遠いってすごいことですよ?あなたその重大性が分かってないんですか?」

「具体的に何がすごいというのです」

「面倒くさいじゃないですか!」

「うん、まぁ、そうですね。それはそうだ」

僕はもうとっととこの話を切り上げたかった。

窓の外をちらりと見る。

一羽のツバメが、視界を横切った。
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by rei_ayakawa | 2008-01-15 19:42 | 旅行記

旅行記 都市


機能美に溢れた人ごみの中。

男は言い放った。

「どけ、このクソババア!」

僕はそれを聞いて、いい気分はしなかった。

「随分乱暴な言葉遣いじゃないですか」

男は急に、狼狽したような表情になった。

目の焦点が合っていない。

「し、しかし、このババアは……このババアは……!こっ、このババアはー!」

叫んで走り出す男。

スクランブル交差点を抜けて人ごみの中に消えていった。

「ババアがババア!ババアがババア!ババアがババア……!」

遠ざかっていく声。

おそらく、僕が軽率だったのだ。
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by rei_ayakawa | 2008-01-11 22:18 | 旅行記

旅行記 海岸


浜辺に一人の女性が座っているのを見た。

体育座り。

小学生の時よくやったなぁ。

暇だったので、話しかけてみた。

「あの……」

「ナンパ?」

「違います」

「そう」

気まずい沈黙と、潮の香りが漂う。

俺はどうしたらいいんだ。

考えていると、唐突に彼女から口を開いた。

「子供の頃から不思議に思ってたんだけどね」

言いながら、腰まである長い髪をかきあげる。

「月のウサギってでかすぎない?」

「は?」

「だって、月の直径が3476キロメートルでしょ。餅つきしているウサギは直立すれば月の直径と同じくらいの大きさがありそうだし、ほとんど大怪獣じゃん。あれはウサギじゃないわ。ウサギの形をした何かよ」

うむむ。

確かに言われてみればそうだが、それがどうしたというのか。

「あいつが地球に来たらどうしよう……。きっと、軍隊でも手に負えないわ。あんなに大きい杵と薄で餅をついているくらいだから、食料も大量に必要なのよ。地球上のあらゆる食物は食いつくされて人類は滅亡……?ああ!なんてことなの!」

彼女のテンションの高さから考えると、これはもしかして本気で心配しているのかもしれない。

「いや、別に地球には来ないと思うんだけど……」

「何故そう言い切れるの?今まで来なかったとしても、これからもそうだとは限らないじゃない。たとえ地球に来なかったとしても、あの杵と薄を投擲されただけで大惨事だわ。いえ、もしかしたら巨大な餅を投擲してきて、地表が餅でおおわれてしまうかもしれない。そんなことになったら、気分は年中お正月よ!ありがたみもなにもあったものではないわ!」

言葉を切った彼女の視線は、大怪獣の住みかへ。

僕は「うん、そうだね……」としか言えなかった。
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by rei_ayakawa | 2008-01-09 19:49 | 旅行記

旅行記 山中


山猫の踊りを見た。

空の向こうに日が沈み、平面上の赤さにしか面影を見いだせなくなったころ。

山中で山猫の踊りを見た。

僕は木の陰からコソコソ見ていた。

「ヘイ、そこのコソコソしたガイ。あんたもこっちきたらどうだい。イッツ・ヴェルィ・ファン」

一匹の山猫が僕に声をかけた。

猫のくせに何故か横文字混じりでしゃべる。

しかも、巻き舌だ。

不思議なこともあるもんだなぁと思いながら、僕は木の陰からコソコソと出て行った。

「僕、踊りはできないんだけど……」

「なーに、大丈夫。やってみたら、案外できるもんさ」

「そうかなぁ……」

「そうさ」

「できなかったら?」

「責任もって、俺が腹を切ろう」

初対面でありえないプレッシャーをかけられた。

事ここに及んでは、踊らなくてはいけない。

失敗は許されない。

「やってみるけど……踊るって具体的にどうやんの?」

「別に考える必要はないんよ。観客もいない山の中だし。音楽に合わせて自由に体をうごかしゃいいんだ」

山猫バンドの演奏は続いている。

「『ドラえもん音頭』か……」

「あんたら人間が作った曲だ」

「いや、うん……その中から『ドラえもん音頭』か……」

「猫だからな」

まぁ、この際だ。

踊ろう。

それがいい。
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by rei_ayakawa | 2008-01-07 16:08 | 旅行記

旅行記 見知らぬ街


初めて訪れた街。

カフェのテラスで、懐かしい友人に会った。

コーヒーを飲んでいる僕に、彼から話しかけてきた。

「おまえ……もしかして、カズキか!?」

「いや、ダイチだけど」

「やっぱりか!俺だよ、トオルだよ!西川トオル」

会話の流れがさっぱり読めなかったが、その名前には聞き覚えがあった。

「有藤小学校平成8年度6年3組?」

「そうそう!いやぁ、懐かしいなぁ」

彼は僕の隣の席に腰掛けた。

無断で。

別に、それが悪いわけじゃないけど。

「お前は今何やってるんだ?」

「旅人、かな」

僕は読んでいた新聞を折りたたんで、机の上に放り投げた。

「そうか!立派だな!」

立派か?とは思ったが、無視して会話をつづけた。

「君はどうなの?」

「俺か?俺は天才だ」

彼は胸を張って言った。

「ふーん」

「俺はすごいぞ!」

誇らしげだった。
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by rei_ayakawa | 2008-01-04 22:50 | 旅行記