写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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2008年 08月 11日 ( 1 )

じめじめとした暑さが、体を蝕んでいる。
どうにも寝付けない。
ベッドに寝そべっていること自体に飽きて、体を起こした。

誰か、いる。

月明かりに照らされて、こちらをじっと見つめている。
その手には数枚のカードが。
おごそかな声で言いながら、扇のようにカードを開いて差し出した。

「さあ、ここから好きなのを選びなさい」

私はおごそかな声で拒否した。

「断固拒否する」

誰だか分からない誰かは、驚いたようだった。
何故それが分かったのかと言うと、「ええ、驚き!」と叫んでいたからだ。
なにせアパートの一室なので、少し不安になった。

「夜中なんで、静かにお願いできます? 近所迷惑ですから」
「ああ、ごめんなさい。まさか、私クラスにおごそかな声の人が他にもいるとは、思わなかったもので」

驚いたポイントはそこか。
せっかく断固拒否したのに。
なんだかむなしくなった。

「仕切りなおしましょう。さあ、ここから好きなのを選びなさい」

しかも、あきらかに話の内容を聞いていない。

「だから、拒否するんですってば」
「ええ、驚き!」
「いちいちそのリアクションするのやめてくださいよ」
「ああ、すみません。何度聞いてもおごそかな声なもので」

どうも、謎の人物――便宜上ナスキュウリバナナコンペイトウと名付けることにした――は私のおごそかな声にばかり注目しているようである。
悪い気はしないが、なんぼなんでも視野が狭すぎる。
もう少し様々なエレメンツに目を向けて欲しいものだ。

「こんなにもおごそかだと、ついつい聞きほれてしまいますねえ。次は気をつけます。それじゃ、仕切りなおしますね」

どうにかしてナスキュウリバナナコンペイトウに、仕切りなおす必要が無いことを伝えなければならない。
極力軽薄な声になるよう努めて、若干テンションを上げ気味に発声した。

「ヘイ、ユー。人の話聞いてないね? オレっちはとっくに拒否しまくってるんだからあ、仕切りなおす必要は無いんだってえの。てえの」

軽薄さを強調するために、軽薄な語尾を二回繰り返した。
我ながらアグレッシブに工夫を凝らしている。
ナスキュウリバナナコンペイトウは、なにやらショックを受けたらしい。
何故それが分かるかと言うと、「ええ、ショッキング!」と叫んでいたからだ。
いい加減にしろ。

「そんな……あなたがそんなに軽薄な人だったなんて……!」

相変わらず内容は頭に入っていないようだ。

この段階にいたって、ようやくナスキュウリバナナコンペイトウが女性であることに気がついた。
声が低い上に、全身を覆い隠すローブをまとい、フードまで被っていたので、今まではっきりとは分からなかったのである。
私は、とりあえず押し倒そうと思った。

「今のは冗談ですよ。私の本来の声は、ほら、こんなにもおごそかです」
「ああ、安心しました。あなたが軽薄な人だったらどうしようかと……」
「軽薄さなんか微塵もありはしませんよ」

言いながらフードを脱がせた。
暗闇に目が慣れてきているので、目鼻顔立ちまで良く見える。
おお、外人さんか。
日本語うまいな。
なにはともあれ、及第点である。
自分にゴーサインを出した。

「こんな服を着ていては暑いでしょう。私が脱がせて差し上げます。ほれほれ」
「ああ、なんておごそかなお方……」

なんだかよく意味が分からないが、とにかく私がおごそかであることだけは確からしい。

「でもその前に、カードだけ選んでくれません?」
「それは拒否します」
「おごそかぁ……」

ナスキュウリバナナコンペイトウは恍惚とした表情を浮かべていた。
手から数枚のカードが零れ落ちる。
私はその内容に別段興味を抱かなかったし、何のためにここまでやって来たのかにも関心が無かった。

重要なのは、ここが平成の千葉県内であり、マイルームに見目麗しい女性と二人きりだということだ。
それが全てだ。
私はカードなんか確認したくはない。
彼女が私の発言内容に注意を払わなかったのも、おそらくは同じことなのだろうと理解した。

狭苦しい世界につき、預言者は生きにくい。





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by rei_ayakawa | 2008-08-11 17:46 | 空想