写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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2005年 12月 26日 ( 1 )

名探偵 中原みすず登場

「うーむ」
芥川警部は首を捻った。
資産家、江戸川正史の大豪邸。その一室で、館の主が死体となってうつ伏せに倒れ付している。
「わかるか?」
芥川の問いかけに、夏目巡査も首を捻って答えた。
「わかりませんねぇ」
予想通りの答えに芥川は一つため息をつく。
「わからんよなぁ……」

今、彼らの頭を悩ませているのは、被害者が死の直前に床に書き残した血文字……いわゆるダイイングメッセージであった。
「素直に犯人の名前をびしっと書いてくれれば楽なんだけどなぁ」
「それだと、犯人が最初に戻ってきたら消されちゃうかもと思ったんじゃないですか?」
「どーせそんなところだろうね。ったく、死ぬ直前によくそんなに頭が回るもんだ」
「人間死ぬ気になれば何でもできるんですよ!感動です!」
会話を聞いても分かるとおり、この手のもののお約束としてダイイングメッセージは意味の分からない文字の羅列であった。

『(死の位置)+(録の位置)”+(山の山)+(荷の誤)=蚊の嘘』

「……あのさ」
芥川はちょっと考え込んでいった。
「長くねぇ?」
「あ、それ僕もちょっと思ってました」
「こんなもんかいてる暇あったら助け呼んだほうがよかったんじゃないかな」
「わざわざ漢字で書いてますもんね」
「もう、暗号がどうとかというよりガイシャの心理がわからんよ、俺は」

そのとき、夏目の頭にある考えが浮かんだ。
「ていうか、こんなのとにらめっこしてるより、地道に捜査したほうがよくありません?」
渾身の名案だと思ったのだが、
「いや、それは駄目だ」
あっさり却下された。
「どうしてですか?」
「お前この文章のタイトル見てみろ」
「『名探偵 中原みすず登場』ですか」
「わかるか?つまりこの後、確実に探偵役が登場するんだよ。ということは、そいつがこのダイイングメッセージを解読する流れになるのは当然のことだ。俺たちはどっち道、事件を解決することは出来ないのさ。ここでこの暗号を無視して捜査すれば、確実に俺たちは無関係の人間を疑って醜態をさらす羽目になる。たとえ解けないことがわかっていても、ここでダイイングメッセージとにらめっこしながら何もしないほうがいいんだよ」
「また、消極的な……」

その時、部屋の扉が勢いよく開き、恰幅のいい中年女性がのっしのっしと入ってきた。芥川と夏目がそろって振り向くと、その女性は鼻息も荒く名乗りあげた。

「またせたねぇ!あたしが『頭脳明晰 容姿端麗 心はいつでも20代☆ 名探偵 中原みすず』だよっ!さぁて、記念すべきあたしの初登場事件はどんなんだい?」

百戦錬磨の芥川ですら放心していた。夏目にいたっては既に半泣きだ。
「いや、その、ここは関係者以外は立ち入り禁止で……」
「ああ?そんな面倒くさいことどうでもいいじゃないか」
自分の職務を忠実に果たそうとする芥川警部の思いは、音速で踏みにじられた。
「どうせ、あたしが解決することになるんだからさぁ。ほら、とっとと事件の説明してよ。これから夕飯の支度しなきゃいけないんだから、手早くすませたいんだよ」
「はい……」

「ふむふむ、なるほどねぇ。これがそのダイビングメンソーレかい」
「ダイイングメッセージです、中原さん」
芥川から事件の概要を聞いたみすずは、被害者の残した血文字の前にかがみこんでいた。
みすずはそれを前に数秒考え込んで……、
「うん、わかった。解けたよ、このモンゴリアンボンジュール」
あっさりと言い放った。夏目は信じられないといった面持ちで、
「え、もうですか!?」
芥川も信じられないといった面持ちで、
「ダイイングメッセージだっつってんだろ、このババァ。一致してるところがほぼ絶無じゃねえか」

そして、みすずによる謎解きが始まった。
「テキパキ行くよ。まず『(死の位置)』。これは4の1、つまり50音表の4列目1段目の『た』。次の『(録の位置)”』。これも今のと同じように、6列目最初の文字の『は』。これに点々がついてるから『ば』ね。『(山の山)』は3列目3段目の『す』。『(荷の誤)』が『こ』」
「あのですね……」
そこまで黙って聞いていた芥川が口を挟んだ。
「そのくらいのことは私たちだって考えましたよ。一番オーソドックスな暗号の作り方ですしね。ただ、そのやり方だと『蚊の嘘』がどうしてもわからない。どうやったって数字には読めないでしょう。第一、これまでに出てきた文字だって『た』『ば』『す』『こ』ですよ?タバスコが事件と関係があるとは思えませんけどね」

芥川の台詞を聞き終わると、みすずは落胆したように大きくため息をついた。
「あんたたち本当にだめねぇ。『蚊の嘘』はこれまでと解き方が違うのよ。ちゃんと最後まで聞きなさい。いい?蚊の嘘なのよ。蚊の嘘。蚊のlie。蚊ライ。辛い」
夏目ははっとしたように顔を上げた。
「そ、そうか!『タバスコ=辛い』。つまりこのダイイングメッセージは、『タバスコは辛い』と読むのか!」
芥川も驚きを隠せなかった。
「な、なんてこった!つまり、タバスコは辛かったのか!」
「そうですよ、警部!タバスコは辛いんです!」








「で?」
「さぁ……」

気がつけばみすずは夕飯の準備のため、既に帰ってしまっていたのであった。
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by rei_ayakawa | 2005-12-26 07:29 | 空想