写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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チエ

彼女がチエと名乗ったので、僕たちは付き合うことになった。

チエはとても優しい子だ。僕はチエが好きだし、チエも僕を好きだと思う。何も問題はないのだけれど、彼女はマッハ3だった。

マッハ3というのは、音より速いのだ。具体的に言うと、音の三倍の速さだ。以前、浜辺で追いかけっこをした時は大変だった。

「うふふ、つかまえてごらんなさい」
「あはは、絶対無理」

そのまま彼女は南米にまで到達してしまったので、しかたがないから飛行機で後を追った。出費も手間もかかったけど、現地に到着して彼女の笑顔を見たら、そんな苦労も吹き飛んでしまった。

子供のころ、障害があればあるほど恋は燃えあがるという言い伝えを聞いた。

マッハ3でぶつかると、相手は死ぬ。チエはすごいから無傷。町中では音速の壁を突破しないように気をつけているらしいけど、たまにやってしまう。そんな少しドジなところも、たまらなくかわいい。

チエはとても優しい子だ。僕はチエが好きだし、チエも僕を好きだと思う。何も問題はない。

「いや、あるね」

声をかけてきたのは、買い物帰りのケンジだった。

「チエを賭けて、俺と勝負しろ」
「何故?」
「俺もチエが好きだからだ」
「お前、なにをいまさら……」
「タイミングを、見計らっていたのさ!」

何のタイミングかは分からないが、とにかくピンチだ。ケンジは確か、時速500キロだ。僕では勝てない。

「大体、おかしいでしょ。僕が勝手にチエを賭けて勝負しても、彼女の気持ちが動かないことには……」
「正論はいい。いくぞ!」

まさか正論の価値をこんな形で否定されるとは思わなかった。ケンジはクラウチングスタートの体勢をとった。まずい。やられる。

「私の為に争わないで!」

声がした。一陣の風が舞い、衝撃音が耳に響く。先ほどまでケンジがいた場所に、チエが立っていた。

「チエ……」
「ススム……」

よく見ると、チエの足元には血だまりが出来ている。おそらく、ケンジは死んだのだろう。

「ススム、私怖かったよ!」
「うん、僕も怖かった」

僕らは抱き合った。夕日が照らす街の影に、僕たちはいる。
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by rei_ayakawa | 2008-04-30 14:11 | 空想