旅行記 汽車
2008年 01月 15日
生まれて初めて汽車に乗った。
先頭から煙がシュッポシュッポ出ているあれだ。
この辺りでは未だに現役らしい。
窓の外には山が流れる。
世界は肌寒い。
「すみません、そこよろしいですか?」
声をかけてきたのは、額の禿げあがった中年男性だった。
「ああ、どうぞ」
シートは四人が向い合せで座れるようになっている。
彼は僕の膝の上に腰掛けた。
「あ、そこは、ダメ……」
「あら、そうですか」
男は腰を浮かせて、そのまま対面の席に座った。
僕は再び窓の外の景色に視線を戻した。
「どちらまで行かれるんです?」
少し、不意を突かれた気分になった。
「ああ、いえ、別に……これといっては決めていません。とりあえず、終点まで行ってみようかな、と」
「終点は、遠いですよ」
「ええ、そうでしょうね」
「わかっているのに行くのですか!?信じられない!」
彼はいかにも信じられなさそうに大きく目を見開いた。
「いや、そんな大げさに驚かれるようなことでも……」
「いやいや、遠いってすごいことですよ?あなたその重大性が分かってないんですか?」
「具体的に何がすごいというのです」
「面倒くさいじゃないですか!」
「うん、まぁ、そうですね。それはそうだ」
僕はもうとっととこの話を切り上げたかった。
窓の外をちらりと見る。
一羽のツバメが、視界を横切った。
by rei_ayakawa
| 2008-01-15 19:42
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