旅行記 海岸
2008年 01月 09日
浜辺に一人の女性が座っているのを見た。
体育座り。
小学生の時よくやったなぁ。
暇だったので、話しかけてみた。
「あの……」
「ナンパ?」
「違います」
「そう」
気まずい沈黙と、潮の香りが漂う。
俺はどうしたらいいんだ。
考えていると、唐突に彼女から口を開いた。
「子供の頃から不思議に思ってたんだけどね」
言いながら、腰まである長い髪をかきあげる。
「月のウサギってでかすぎない?」
「は?」
「だって、月の直径が3476キロメートルでしょ。餅つきしているウサギは直立すれば月の直径と同じくらいの大きさがありそうだし、ほとんど大怪獣じゃん。あれはウサギじゃないわ。ウサギの形をした何かよ」
うむむ。
確かに言われてみればそうだが、それがどうしたというのか。
「あいつが地球に来たらどうしよう……。きっと、軍隊でも手に負えないわ。あんなに大きい杵と薄で餅をついているくらいだから、食料も大量に必要なのよ。地球上のあらゆる食物は食いつくされて人類は滅亡……?ああ!なんてことなの!」
彼女のテンションの高さから考えると、これはもしかして本気で心配しているのかもしれない。
「いや、別に地球には来ないと思うんだけど……」
「何故そう言い切れるの?今まで来なかったとしても、これからもそうだとは限らないじゃない。たとえ地球に来なかったとしても、あの杵と薄を投擲されただけで大惨事だわ。いえ、もしかしたら巨大な餅を投擲してきて、地表が餅でおおわれてしまうかもしれない。そんなことになったら、気分は年中お正月よ!ありがたみもなにもあったものではないわ!」
言葉を切った彼女の視線は、大怪獣の住みかへ。
僕は「うん、そうだね……」としか言えなかった。
by rei_ayakawa
| 2008-01-09 19:49
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