写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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素晴らしいことこの上ない人生

わたくしの前にあの方が初めて現れたのは……いつごろのことだったかしら?確か、わたくしが「ヤッホーヤッホー、ヨーロレイヒー」と山脈に向かって声を張り上げたすぐ後です。急に表れたものだから、わたくしびっくりしてしまいましたの。

「やあやあ、はじめまして。山彦です」
「あら、あなたが噂に聞くあの……」
「山彦です」
「山彦さんでしたのね」
「ええ、山彦です」
「なぜこんなところにいらっしゃるのですか?」
「あー、そうですね、しいて言うなら山彦だからです」
「あらぁ、山彦だから」
「ええ、山彦だからです」
「大変ですのね」
「いえ、山彦です」

わたくしとあの方はすぐに親しくなりましたわ。きっと、お互いに通じ合うものがあったのでしょうね。ですが、すぐに別れの時はやってきてしまいました。

「そろそろ日が暮れてしまいますわ。山を降りなければ……」
「そうですか。では、お別れですね」
「あなたも一緒に降りませんか?」
「無理ですね。山彦ですからね」
「そうですか……山彦って、不自由なものなのですね」
「いえ、僕は山彦の割には自由な方ですね」
「そうなのですか」
「山彦の割にはね。まあ、また来てくだされば会えますよ。ちょっとあっちの山肌に声を掛けてくれれば、すぐ出てきます」
「わかりました。それではまた……」
「お元気で」

わたくしたちは幾度も会ううち、お互いに特別な感情を抱くようになっていました。ですが、わたくしのお父様はとても厳しい方で、わたくしたちの結婚を許してはくれませんでした。

「家に一度も挨拶に来ない男なんかとの結婚を許せというのかね?」
「お父様!それは、彼が山彦だから……」
「そこだよ。山彦なんかとの結婚を許すわけにはいかん。山彦は山彦であって、人ではないんだ」
「でも……」
「お前は一生を山にこもって過ごす気かね?」
「はい。それだけの覚悟は持っていますわ」
「お前の気持ちはわかるがね。それは若さゆえの一過性の感情だよ。もっとしっかり自分の将来の生活を考えるべきだ」
「お父様!」

あの方も「僕らは一緒になるべきではないと思うな。だって、山彦だし。こればかりは如何とも……」とお父様と同じようなことを言いましたが、わたくしはどうしてもあの方と離れたくなかったのです。わたくしは言いました。

「でしたら、わたくしも山彦になりますわ!」
「ええ!いや、なろうと思ってなれるものでもないし、大体、山彦なんてろくなもんじゃないよ?」
「でも、あなたはとても素敵な方ではありませんか」
「いや、別に山彦がろくでなし揃いとかそういう意味じゃなくて、なって面白いものじゃないって意味さ」
「それでも、あなたとは一緒にいられます」
「うーん、でも、山彦どうしってコミュニケーションとれないし……誰かが呼びかけてくれないと喋れないわけで、そこはほら、君が呼びかけてくれないと話にならないわけですよ」
「会話のない仮面夫婦でも構いませんわ!愛さえあれば!」
「うん、いや、言わんとしていることはわかるんだけどね」

仕方がないので、わたくしは山中に山小屋を自力で建設して、そこに住むことにしました。

「……君、働きっぱなしだけど大丈夫?」

あの方は、常にわたくしを気遣ってくださいました。ですが、わたくしもいつまでも弱いままの女ではありません。

「なーに、この程度全く心配ありませんぜ!ガハハ!」

わたくしは建築作業を通して身も心も鍛えられ、立派なガテン系へと変身していたのです!こうして著しくたくましくなったわたくしは、やがて筋肉への愛着が高じて海外のボディビルコンテストに出場し、見事に優勝。そこで光り輝くマッスルボディのジョンと出会って、間もなく結婚。今では一男一女を設け幸せな毎日を送っています。

筋肉って、本当によろしいものですね。
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by rei_ayakawa | 2007-10-24 19:03 | 空想