写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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雨天名刀

今日も雨が降っている。

(めんどくせぇな……)

そう思いつつも、玄関の傘立てから無造作に一本引き抜く。何故かサムライソードだった。何故か、サムライソードだった。何故だよ。

「おーい、サトミ」

とりあえず、台所にいる妻に声をかける。

「なにー?」
「傘立てに日本刀が入っているんだが」
「あー」
「しかも、抜き身なんだが」
「それねぇ。鞘がどこか行っちゃったのよ」
「私が聞きたいのはそういうことじゃないんだ」

詳しく事情を聞くと、押し込み強盗が持っていたのを奪って手に入れたということだ。これはちょっとした衝撃である。

「へぇ、そんなことがあったんだね。はじめて知ったよ」
「全くこれだから家庭に無関心な仕事人間は……」
「いや、君微塵もそんな話してなかったよね?私知らなくて当たり前だよね?」
「しかも言い訳ですか、はっ」
「力の限り鼻で笑ってくれたね。それで、その強盗はどうなったの?」
「こうなったわ」

妻が和室の押入れの戸をを開けると、中にもっさりとしたあごひげを生やした男が正座で座っていて私を見るなり頭を下げ

「警察だぁー!!!」

私が受話器に飛びかかろうとすると、背筋に凄まじい衝撃が走り(ああ、これは愛しき人のジャンピング・ニーだな。久しぶりに食らったよ……)と感傷的な気持ちになりながら顔面が壁にぶち当たってイタタタタ。

「まぁ、とりあえず落ち着くのよ、あなた」

私としては相当に落ち着いた対処のつもりだったのだが、悲しいことにその思いを伝えることができない。あまりの激痛にもんどりうっているからだ。

「事情を知ればあなたも納得できるはずよ。まず、彼にはお金が無い。勤めていた会社からリストラされてしまったらしいの。餓死寸前というところで、やむを得ず強盗なんて手段に出てしまったのよ。最初から誰かを傷つけるつもりは無かったみたいだし、話してみれば根はいい人だったわ。彼が新しい仕事を見つけるまで、最低限の寝床と食事を与えてあげようって思ったの。あなたからすれば、こんな得体の知れない男と日中二人きりなんていろんな意味で危険すぎると思うかもしれないけど、大丈夫。いざとなったら武力制圧できるし、私の心がこの人に傾いて危険な情事って方向性になれば、まぁ、それがあんたの人徳ってやつよ」

肉体的なダメージは落ち着いたが、さりげなく追加された精神的ダメージがかなり深い。しかし、一つ気になることがあった。

「……餓死寸前まで日本刀持ってたのか?」
「へ?」

妻がとぼけた声を出す。

「いや、だからさ。売ればよかったんじゃないの?日本刀を。そこそこ値は張るだろうに。何で最後に残ったものがそれなのさ」
「うーん、ほら、それは最終的にどうにもならなくなった時のために……」
「おかしいだろ、それ。果物ナイフでいいじゃないか。何で着の身着のままになるまであんなかさばるもん持ってんだよ」
「じ、実は先祖代々伝わってきた名刀で、あれだけは最後まで大切にしてたとか……」
「なおさら売れよ。名刀ならさ。ていうか、そんなもんを大切にするあまり強盗とかしちゃダメでしょ」
「……うん」
「わかったね。わかったら、捨ててらっしゃい」
「はい……」

妻は強盗の襟首を掴み、「信じてたのにー!」と叫びながら窓の外へ投擲した。彼女の目に光っていたのは、やはり涙か。強盗の姿は、山の向こうへと消えていった。

私は彼女の肩を抱き寄せながら、(やっぱりこれって殺人になるのかな)と思うのであった。
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by rei_ayakawa | 2007-08-22 18:43 | 空想