写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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スパイダー雲の冒険

ぼくの名前はスパイダー雲。蜘蛛だ。

今日は蜘蛛の王女から昼食会の誘いを受けている。ウキウキ気分の旅立ちだ。場所はマレーシアのミネソタ州神保町。自宅からだと、徒歩で3時間、電車で3日かかる。徒歩以外の選択肢は正直ありえない。歩くのは慣れていないが、致し方ないだろう。

外に出ると、霧が深かった。街灯が薄暗い町並みを照らす。まだ時間には余裕があるが、なにせ王女からの誘いだ。遅れては洒落にならないので、不測の事態に備えて早めに出ることにする。向かう場所が場所だけに、発声練習にも気合が入った。うん、我ながらいい声だ。これなら問題はあるまい。

いざ行かんと歩を進めようとしたところで、携帯が鳴った。マイ・ガールフレンドの飛行機蜘蛛からだ。何の用事だろう。

「はい、もしもし」
「もう家でた?」
「いや、今出るところ」
「そう、それなら良かった。じゃあね」
「それじゃ」

さあ、出発だ。

カサコソと8本の足をせわしなく動かして歩く。住宅街を抜けると川沿いに土手があり、道が南北に伸びている。そこを西に折れ、東北へ向かい、南西には北斗七星が輝く。この辺りはいつも夜だ。

「おう、スパ雲っつぁんじゃないか」

声をかけてきたのは、熊のトラさんだった。

「トラさん、悪いが今日は派兵できないよ。用事があるんだ」
「いやいや、今回は総選挙がないからそんなことはどうでもいいんだ。それより、ワイドショーに巨乳アイドルが出ていたのは知ってるかい?」
「知ってるも何も、常識さ」
「ははは、お前には負けるよ」

ぼくらは手を振り合って別れた。

やがて、道は砂漠になった。太陽がsun sunと照りつける。そこら中にソーラー発電機が設置されている。この地域の電力は、ほぼ全てこれでまかなわれているのだ。ひぃひぃ言いながら歩を進めるぼくに、一個の発電機が語りかけてきた。

「なんか大変そうだなぁ。どこに行こうとしているんだい?」

こんな砂の大地に生れ落ちて、退屈なのかもしれない。

「生の苦しみから逃れられるところまで……とりあえずは、昼食会へ」
「そうか。俺には発電し続けることしか出来ないが、がんばって食べて来いよ」
「見ず知らずの蜘蛛にそんな優しい言葉をかけるなよ」
「いや、あんたは男の中の男さ」

なかなかいいやつじゃないか。少し暖かい気持ちになった。おかげで、暑いことこの上ない。

黙々と歩を進める。景色は変わり続ける。砂漠を抜け、海を越え、氷河期を切り裂き、熱帯夜に未必の故意を見て、ようやく超高層のオフィス街まで辿り着いた。

ここまでくれば、あと少しだ。人の波を縫って目的のビルに入り、エレベーターのボタンを押した。轟音が響き渡って、ビルは飛び立ち、雲を貫き、あっという間に大気圏外まで到達した。

宇宙は広い。このまま踊り続けていれば、昼食会の会場に辿り着けるはずだ。

チーン。

ドアが開いた。そこは桜の花びらが舞い散る丘の上だった。王女はぼくに気がつくと、エレガント極まりない足取りでこちらに近付いてきた。

「よく来てくれましたね、スパイダー雲」
「この度はお呼びいただいて光栄です」
「それじゃ、指切りしましょうか」
「もちろんです」

ぼくと王女が小指を絡める。王女は小鳥のさえずるような美しい声で、呟くように歌った。

ゆびきりげんまん ゆびきったらはりせんぼんのます♪

王女が軽く目配せをする。

「指切った!」

ぼくが元気よく指切りを宣言した瞬間、祝福の拍手が怒号のように鳴り轟いた。蜘蛛に指なんかないじゃないか!くそっ、ぼくは嵌められたんだ……。
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by rei_ayakawa | 2007-08-12 22:30 | 空想