少女の夢
2007年 06月 30日
1
外では雨がしとしとと降っている。
血まみれの手。何でこんなことになってしまったんだろう。床に血だまりが出来ている。何でこんなことに。
動かない彼の頬にキスをして、そのまま横になった。べっとりとした液体が、髪や肌に染みこんで行く感覚。
妙に心地よかった。
2
服が汗でじっとりと湿っていた。少し喉が渇いている。まだ部屋は暗い。
ベッドの上で上半身だけ起こして、今見た夢を思い返した。いやな夢だった。よりによって自分の彼氏を殺すとか、ねぇ。別に不満があるわけでもないのに。どうせだったら、もっと気に入らない相手を殺しておきたい。夢だし。
蛍光塗料が塗られた時計の針に目をやった。まだ午前3時。起きてしまうには早すぎる時間だ。私は体を倒して、布団を被った。
次はもうちょっといい夢が見られるといいんだけど……。
3
窓から午後の日差しが差し込んでいる。
白い部屋。私はベッドで上半身だけを起こしている。ドアをノックする音が聞こえた。入ってきたのは、くねくね先生だった。
「やぁ、調子はどうだい?」
「悪くはないわ」
くねくね先生はくねくねしているから、みんなからくねくね先生と呼ばれている。今日も相変わらずくねくねしていた。本来目があるべき部分から、赤子の腕が伸びていることも私を安心させた。
「悪いが、君の命は後三日だよ」
彼は目(腕?)をくねくねと動かしながら、穏やかに言った。
「そう、ほっとしたわ」
私もくねくねしながら答えた。
私たちは二人でくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねしながら笑った。
4
あまりいい夢とはいえなかったなぁ。
部屋は暗い。少しも明かりが差し込んできてないってことは、まだ起きなくてもいい時間なのだろう。さっき起きた時から、そんなに経っていないのかも。なんか、また変な夢を見そうだけど、寝られる時にはやっぱり寝ておきたい。
嫌な予感をひしひしと感じながら、私は枕に顔を埋めた。
5
私は友人と一緒にバスを待っていた。
「ねぇ、知ってる?」
彼女は言った。
「今、世界中で屋根がなくなって大変なんだって」
「そうなんだ」
言われてみれば、周りに見える民家には屋根がない。雨が降ったら大変だ。
「ねぇ、知ってる?」
彼女が言った。
「私、空を飛べるんだよ」
はじめて聞く話だ。多分。
「そうなんだ」
「でも、空が見えないの。どうしても」
見上げると、いくつもの巨大な顔面が空を埋め尽くしていた。隙間もなく。
「ほんとだ、見えないね」
「でしょ?」
やがて、雨が降り始めた。目玉から。
なにを悲しんでいるんだろう。
急に、友人が笑い出した。目を大きく見開いて、けたたましく笑っていた。
「ざまあみろ!ざまあみろ!」
よく見ると、彼女は私。
6
まだ部屋は暗かった。
なんだか、今日は妙に眠りが小刻みだ。もう起きてしまってもいいかもしれない。時計に目をやると、針はちょうど2時を
7
アランの作ったサイケデリックなブレックファストを食べていると、急に窓をぶち破ってピンクさんが飛び込んできた。
「私たちは21世紀の精神異常者を倒さなければなりません、早く行きましょう!」
「なぜ?」
「同志が危機に陥っているからです。さぁ、ルーシー。私の手を掴んで」
ルーシーって誰よ?と思う間もなく、私は彼に手を引かれて、一緒に空へと浮かびあがった。燃える朝焼けが見える。私の周りには、何故かいくつものダイヤモンドがキラキラと光っていた。
「早くしないと、やつの手によって恐怖の頭脳改革が行われてしまいます。子供たちの子供たちの子供たちへ理想の世界を届けるために、私たちがなんとかしなければならないのです。吹けよ風、呼べよ嵐!なにが起ころうとも、私たちを止めることは出来ないぞ!」
ピンクさんは妙にテンションが高い。私たちは輝ける七つの海を越え、やがて鬱蒼と木々の茂る森に降りたった。さっきまでの朝日が嘘のような暗黒の世界。私が不安な気持ちになっていると、ひげもじゃのおじさんが駆け寄ってきた。
「やぁやぁ、お二人ともよく来てくださいました。私はユージン。ホテル・カルフォルニアの従業員で……」
ユージンがそこまで言ったとき、突如三つの人影が飛び出してきた。
「俺の名はエマーソン」
「レイク」
「パーマー!」
「「「食らえ、三位一体の攻撃!」」」
ピンクさんが叫ぶ。
「ユージン、斧に気をつけろ!」
エマーソンとレイクとパーマーはその手にもった斧を同時にユージンに投げつけた。ユージンは絶叫と共に天国への階段を上っていってしまった。
「よ、よくもユージンを!この堕落天使どもめ、混沌こそ貴様らの墓碑銘と心得るがよい!」
ピンクさんのテンションは上がるばかりだ。
「「「ほざけ!再び赤い悪夢を見せてくれるわ!」」」
3人が一斉に投げつけた斧は、全部ピンクさんの頭に命中した。彼のロンリー・ハートは空へと昇り、天の支配に組み込まれるのだろう。私は恐怖に震えながら、サテンの夜に「葉巻はいかが」と言ってくれたサージェント・ペパーを思い出し、「あなたがここにいてほしい……」と呟いたのでした。
だけども問題は今日の雨。傘がない。
8
月明かりに照らされた円筒形の建物の前に、私は立っていた。
紫色に塗り固められた壁には窓一つなく、人一人が通り抜けられそうな入り口だけがぽっかりと開いている。
周りを見渡すと、同じような建物がそこかしこにあった。月明かりに照らされて。
少し戸惑いながらも、私は正面の建物に足を踏み入れた。そうしなければいけない気がしたから。席が空いていたので座った。しばらくするとドアが閉じて、列車は走り出した。
窓の外を流れるのは、田園の風景だった。夜空に星が瞬いている。
ガタン、ゴトン……。
耳障りな音だ。
ガタン、ゴトン……。
道路が現れ、線路と平行に延びはじめた。列車と同じ速度で、一台の車が走っている。
ガタン、ゴトン……。
ヘッドライトの軌跡が、車の行く手を照らす。不意に、道路が途切れて崖になり、車は中空に放り出され、私の視界から消えた。
ガタン、ゴトン……。
次の駅にはまだ着かないのかな。
ガタン、ゴトン……。
早くここから出たい。
ガタン、ゴトン……。
車内アナウンスが流れた。「午前1時ちょうどをお知らせいたします」
ガタン、ゴトン……。
9
カーテン越しに淡い光が差し込んでいた。
あまりいい目覚めって感じじゃない。寝転んだまま体の向きを変えて、時計を確認する。7時。もちろん、朝の7時。そろそろ起きておかないとまずい。まだだるい体を起こして、一つ伸びをした。
少しずつ目が冴えてきて、さっきまで見ていた夢を思い出す。具体的に思い出せるわけじゃないけど、なんだか凄くでたらめで凄く長かった気がする。夜に何度か起きたような記憶があるけど、あれも夢だったんだろうか。よくわからない。
階下に降りると、リビングでお父さんが新聞を広げながらコーヒーを飲んでいた。
「おはよう」
私が声をかけると、ちらりと視線を向けて「おはよう」と返し、また新聞を読み始めた。キッチンに行くとお母さんがいたのでここでも挨拶して、食パンをオーブントースターに突っ込んだ。
私がトーストと牛乳を持って席についたあたりで、お父さんがぎょっとしたように目を見開きバタバタと新聞を閉じて立ち上がった。
「いかん、遅刻する」
飛び出すように出て行く。お母さんもあきれた顔をして「祐二もまだ起きてこないし、本当にうちの男どもはどうしようもないねぇ」と二階に上がっていった。相変わらずこの人たち面白い。
それにしても……と思う。夢はその人の深層心理を表す、とかいう話があるけど、それが正しいなら今日の夢にはどんな意味があるんだろう。断片的に覚えている部分を拾うだけでも、なんていうか文句なしに病んでいる。まぁ、考えても仕方のないことではあるけれど。
食べ終わったら身支度を整えて、学校に向かう。歩いて10分の近さが魅力だ。ちょうど半分くらいの距離を歩いたところで、後ろから武が声をかけてきた。
「よっす、おはよ」
「おはよー」
死んでなくてよかった、とバカなことを思ったりする。彼は私の横に並んで、いつものようにおどけた調子で話を始めた。
「なんかさー、俺今日変な夢見ちまったんだよ。聞いてくれるか?むしろ、聞け」
嫌な予感が、ふと。
「……まぁ、いいけど。どんなの?」
「うむ、それがなぁ」
本当は、あまり続きを聞きたくなかった。
「俺が君に殺される夢なんだよ。なんか俺殺されそうなことしたっけ?」
こんなことってあるんだろうか。すぐには言葉が出ない。視線をそらして軽くうつむいた。彼が訝しげに私の顔を覗き込む。
「あれ、もしかしてしちゃってた?」
「ううん、してない。……でも」
「ん?」
私は一呼吸おいてから答えた。
「私も、武を殺す夢見たよ。今日」
彼は驚いたように、息を呑んだ。
「おいおい……。なんていうか、それは……夢じゃないよ」
そこで、目が覚めた。
10
外では雨がしとしとと降っている。
外では雨がしとしとと降っている。
血まみれの手。何でこんなことになってしまったんだろう。床に血だまりが出来ている。何でこんなことに。
動かない彼の頬にキスをして、そのまま横になった。べっとりとした液体が、髪や肌に染みこんで行く感覚。
妙に心地よかった。
2
服が汗でじっとりと湿っていた。少し喉が渇いている。まだ部屋は暗い。
ベッドの上で上半身だけ起こして、今見た夢を思い返した。いやな夢だった。よりによって自分の彼氏を殺すとか、ねぇ。別に不満があるわけでもないのに。どうせだったら、もっと気に入らない相手を殺しておきたい。夢だし。
蛍光塗料が塗られた時計の針に目をやった。まだ午前3時。起きてしまうには早すぎる時間だ。私は体を倒して、布団を被った。
次はもうちょっといい夢が見られるといいんだけど……。
3
窓から午後の日差しが差し込んでいる。
白い部屋。私はベッドで上半身だけを起こしている。ドアをノックする音が聞こえた。入ってきたのは、くねくね先生だった。
「やぁ、調子はどうだい?」
「悪くはないわ」
くねくね先生はくねくねしているから、みんなからくねくね先生と呼ばれている。今日も相変わらずくねくねしていた。本来目があるべき部分から、赤子の腕が伸びていることも私を安心させた。
「悪いが、君の命は後三日だよ」
彼は目(腕?)をくねくねと動かしながら、穏やかに言った。
「そう、ほっとしたわ」
私もくねくねしながら答えた。
私たちは二人でくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねくねしながら笑った。
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あまりいい夢とはいえなかったなぁ。
部屋は暗い。少しも明かりが差し込んできてないってことは、まだ起きなくてもいい時間なのだろう。さっき起きた時から、そんなに経っていないのかも。なんか、また変な夢を見そうだけど、寝られる時にはやっぱり寝ておきたい。
嫌な予感をひしひしと感じながら、私は枕に顔を埋めた。
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私は友人と一緒にバスを待っていた。
「ねぇ、知ってる?」
彼女は言った。
「今、世界中で屋根がなくなって大変なんだって」
「そうなんだ」
言われてみれば、周りに見える民家には屋根がない。雨が降ったら大変だ。
「ねぇ、知ってる?」
彼女が言った。
「私、空を飛べるんだよ」
はじめて聞く話だ。多分。
「そうなんだ」
「でも、空が見えないの。どうしても」
見上げると、いくつもの巨大な顔面が空を埋め尽くしていた。隙間もなく。
「ほんとだ、見えないね」
「でしょ?」
やがて、雨が降り始めた。目玉から。
なにを悲しんでいるんだろう。
急に、友人が笑い出した。目を大きく見開いて、けたたましく笑っていた。
「ざまあみろ!ざまあみろ!」
よく見ると、彼女は私。
6
まだ部屋は暗かった。
なんだか、今日は妙に眠りが小刻みだ。もう起きてしまってもいいかもしれない。時計に目をやると、針はちょうど2時を
7
アランの作ったサイケデリックなブレックファストを食べていると、急に窓をぶち破ってピンクさんが飛び込んできた。
「私たちは21世紀の精神異常者を倒さなければなりません、早く行きましょう!」
「なぜ?」
「同志が危機に陥っているからです。さぁ、ルーシー。私の手を掴んで」
ルーシーって誰よ?と思う間もなく、私は彼に手を引かれて、一緒に空へと浮かびあがった。燃える朝焼けが見える。私の周りには、何故かいくつものダイヤモンドがキラキラと光っていた。
「早くしないと、やつの手によって恐怖の頭脳改革が行われてしまいます。子供たちの子供たちの子供たちへ理想の世界を届けるために、私たちがなんとかしなければならないのです。吹けよ風、呼べよ嵐!なにが起ころうとも、私たちを止めることは出来ないぞ!」
ピンクさんは妙にテンションが高い。私たちは輝ける七つの海を越え、やがて鬱蒼と木々の茂る森に降りたった。さっきまでの朝日が嘘のような暗黒の世界。私が不安な気持ちになっていると、ひげもじゃのおじさんが駆け寄ってきた。
「やぁやぁ、お二人ともよく来てくださいました。私はユージン。ホテル・カルフォルニアの従業員で……」
ユージンがそこまで言ったとき、突如三つの人影が飛び出してきた。
「俺の名はエマーソン」
「レイク」
「パーマー!」
「「「食らえ、三位一体の攻撃!」」」
ピンクさんが叫ぶ。
「ユージン、斧に気をつけろ!」
エマーソンとレイクとパーマーはその手にもった斧を同時にユージンに投げつけた。ユージンは絶叫と共に天国への階段を上っていってしまった。
「よ、よくもユージンを!この堕落天使どもめ、混沌こそ貴様らの墓碑銘と心得るがよい!」
ピンクさんのテンションは上がるばかりだ。
「「「ほざけ!再び赤い悪夢を見せてくれるわ!」」」
3人が一斉に投げつけた斧は、全部ピンクさんの頭に命中した。彼のロンリー・ハートは空へと昇り、天の支配に組み込まれるのだろう。私は恐怖に震えながら、サテンの夜に「葉巻はいかが」と言ってくれたサージェント・ペパーを思い出し、「あなたがここにいてほしい……」と呟いたのでした。
だけども問題は今日の雨。傘がない。
8
月明かりに照らされた円筒形の建物の前に、私は立っていた。
紫色に塗り固められた壁には窓一つなく、人一人が通り抜けられそうな入り口だけがぽっかりと開いている。
周りを見渡すと、同じような建物がそこかしこにあった。月明かりに照らされて。
少し戸惑いながらも、私は正面の建物に足を踏み入れた。そうしなければいけない気がしたから。席が空いていたので座った。しばらくするとドアが閉じて、列車は走り出した。
窓の外を流れるのは、田園の風景だった。夜空に星が瞬いている。
ガタン、ゴトン……。
耳障りな音だ。
ガタン、ゴトン……。
道路が現れ、線路と平行に延びはじめた。列車と同じ速度で、一台の車が走っている。
ガタン、ゴトン……。
ヘッドライトの軌跡が、車の行く手を照らす。不意に、道路が途切れて崖になり、車は中空に放り出され、私の視界から消えた。
ガタン、ゴトン……。
次の駅にはまだ着かないのかな。
ガタン、ゴトン……。
早くここから出たい。
ガタン、ゴトン……。
車内アナウンスが流れた。「午前1時ちょうどをお知らせいたします」
ガタン、ゴトン……。
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カーテン越しに淡い光が差し込んでいた。
あまりいい目覚めって感じじゃない。寝転んだまま体の向きを変えて、時計を確認する。7時。もちろん、朝の7時。そろそろ起きておかないとまずい。まだだるい体を起こして、一つ伸びをした。
少しずつ目が冴えてきて、さっきまで見ていた夢を思い出す。具体的に思い出せるわけじゃないけど、なんだか凄くでたらめで凄く長かった気がする。夜に何度か起きたような記憶があるけど、あれも夢だったんだろうか。よくわからない。
階下に降りると、リビングでお父さんが新聞を広げながらコーヒーを飲んでいた。
「おはよう」
私が声をかけると、ちらりと視線を向けて「おはよう」と返し、また新聞を読み始めた。キッチンに行くとお母さんがいたのでここでも挨拶して、食パンをオーブントースターに突っ込んだ。
私がトーストと牛乳を持って席についたあたりで、お父さんがぎょっとしたように目を見開きバタバタと新聞を閉じて立ち上がった。
「いかん、遅刻する」
飛び出すように出て行く。お母さんもあきれた顔をして「祐二もまだ起きてこないし、本当にうちの男どもはどうしようもないねぇ」と二階に上がっていった。相変わらずこの人たち面白い。
それにしても……と思う。夢はその人の深層心理を表す、とかいう話があるけど、それが正しいなら今日の夢にはどんな意味があるんだろう。断片的に覚えている部分を拾うだけでも、なんていうか文句なしに病んでいる。まぁ、考えても仕方のないことではあるけれど。
食べ終わったら身支度を整えて、学校に向かう。歩いて10分の近さが魅力だ。ちょうど半分くらいの距離を歩いたところで、後ろから武が声をかけてきた。
「よっす、おはよ」
「おはよー」
死んでなくてよかった、とバカなことを思ったりする。彼は私の横に並んで、いつものようにおどけた調子で話を始めた。
「なんかさー、俺今日変な夢見ちまったんだよ。聞いてくれるか?むしろ、聞け」
嫌な予感が、ふと。
「……まぁ、いいけど。どんなの?」
「うむ、それがなぁ」
本当は、あまり続きを聞きたくなかった。
「俺が君に殺される夢なんだよ。なんか俺殺されそうなことしたっけ?」
こんなことってあるんだろうか。すぐには言葉が出ない。視線をそらして軽くうつむいた。彼が訝しげに私の顔を覗き込む。
「あれ、もしかしてしちゃってた?」
「ううん、してない。……でも」
「ん?」
私は一呼吸おいてから答えた。
「私も、武を殺す夢見たよ。今日」
彼は驚いたように、息を呑んだ。
「おいおい……。なんていうか、それは……夢じゃないよ」
そこで、目が覚めた。
10
外では雨がしとしとと降っている。
by rei_ayakawa
| 2007-06-30 18:22
| 空想