「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」
2007年 05月 11日
「じゅうまん、ひゃくまん、いっせんまん……」
部屋に篭りっきりは体によくない。少し外の空気を吸おうと外にでたところ、アパートの階段に座り込んでなにやらぶつぶつ呟いている少年がいた。とても真剣な顔つきで、手にした巻物を見ている。休日の私は如何ともしがたいくらいの暇人なので、そんな光景に興味を抱いたのも当然のことといえる。
「なに数えてるんだい、ぼうや」
「いちおく、じゅうおく、ひゃくおく………これだよ」
彼は正面にいる私にも見えるように、巻物を広げて見せた。
『100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000』
「……なんだい、こりゃ」
巻物の中は、おびただしい数の0とたった一つしかない1で埋まっていた。
「これ、いくつなのか良く分からないんだ。だから数えてる。せんおく、いっちょう、じゅっちょう、ひょくちょう、せんちょう……」
説明を終えた少年は、指で数字を指しながら数え続けた。
「いっけい、じゅっけい、ひゃっけい、せんけい……ねぇ、『京』の次ってなんだっけ?」
声をかけられ、はっとする。
「ああ、ええと、なんだったかな」
「頼りないなぁ、大人のクセに。思い出した、『垓』だ。いちがい、じゅうがい、ひゃくがい、せんがい……」
私は、とても落ち着かない気分になっていた。目の前で繰り広げられている光景は、不気味というほか無い。第一、あの巻物は何だ?誰が何の目的で書いて、彼に渡したというのだろうか。子供の暇つぶしのため?そもそも、この少年自体普通ではない。なぜ小学校にあがるかあがらないかという年頃の少年が、大人でもよく知らない大きな数の数え方を知っているのだろうか。
「いちじょ、じゅうじょ、ひゃくじょ、せんじょ、いちじょう、じゅうじょう、ひゃくじょう、せんじょう、いっこう、じゅっこう、ひゃっこう、せんこう……」
もはや何がなんだか分からない。ここだけぱっと聞いたら念仏のように聞こえるだろう。
「いちかん、じゅっかん、ひゃっかん、せんかん、いちさい、違う、なんだっけ。ああ、そうだ。いちせい、じゅっせい、ひゃくせい、せんせい、いちさい、じゅっさい、ひゃくさい、せんさい、いちごく、じゅうごく、ひゃくごく、せんごく……」
私が受けていた感情は、『恐怖』とあえて直接的に表現しても構わないものであったが、それと同時に、ここにとどまりたい気持ちも私の中には確かに存在した。少年は一心不乱に数え続ける。
「いちこうがしゃ、じゅうこうがしゃ、ひゃくこうがしゃ、せんこうがしゃ、えーと、このつぎーこのつぎー……思い出した!いちあそうぎ、じゅうあそうぎ、ひゃくあそうぎ、せんあそうぎ、いちなゆた……」
そこまで数えて、彼の指先が止まった。
「わかったよ、この数字は一那由他だ」
少年は顔を上げ、はにかんだような笑みを浮かべながら言った。その瞬間、自分が怯えながらもこの場にとどまっていた理由が分かった気がした。
「やったじゃないか」と心からの賛辞の言葉をかけた。彼は嬉しそうに立ち上がり、軽やかな足取りで階段を駆け上っていった。
部屋に篭りっきりは体によくない。少し外の空気を吸おうと外にでたところ、アパートの階段に座り込んでなにやらぶつぶつ呟いている少年がいた。とても真剣な顔つきで、手にした巻物を見ている。休日の私は如何ともしがたいくらいの暇人なので、そんな光景に興味を抱いたのも当然のことといえる。
「なに数えてるんだい、ぼうや」
「いちおく、じゅうおく、ひゃくおく………これだよ」
彼は正面にいる私にも見えるように、巻物を広げて見せた。
『100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000』
「……なんだい、こりゃ」
巻物の中は、おびただしい数の0とたった一つしかない1で埋まっていた。
「これ、いくつなのか良く分からないんだ。だから数えてる。せんおく、いっちょう、じゅっちょう、ひょくちょう、せんちょう……」
説明を終えた少年は、指で数字を指しながら数え続けた。
「いっけい、じゅっけい、ひゃっけい、せんけい……ねぇ、『京』の次ってなんだっけ?」
声をかけられ、はっとする。
「ああ、ええと、なんだったかな」
「頼りないなぁ、大人のクセに。思い出した、『垓』だ。いちがい、じゅうがい、ひゃくがい、せんがい……」
私は、とても落ち着かない気分になっていた。目の前で繰り広げられている光景は、不気味というほか無い。第一、あの巻物は何だ?誰が何の目的で書いて、彼に渡したというのだろうか。子供の暇つぶしのため?そもそも、この少年自体普通ではない。なぜ小学校にあがるかあがらないかという年頃の少年が、大人でもよく知らない大きな数の数え方を知っているのだろうか。
「いちじょ、じゅうじょ、ひゃくじょ、せんじょ、いちじょう、じゅうじょう、ひゃくじょう、せんじょう、いっこう、じゅっこう、ひゃっこう、せんこう……」
もはや何がなんだか分からない。ここだけぱっと聞いたら念仏のように聞こえるだろう。
「いちかん、じゅっかん、ひゃっかん、せんかん、いちさい、違う、なんだっけ。ああ、そうだ。いちせい、じゅっせい、ひゃくせい、せんせい、いちさい、じゅっさい、ひゃくさい、せんさい、いちごく、じゅうごく、ひゃくごく、せんごく……」
私が受けていた感情は、『恐怖』とあえて直接的に表現しても構わないものであったが、それと同時に、ここにとどまりたい気持ちも私の中には確かに存在した。少年は一心不乱に数え続ける。
「いちこうがしゃ、じゅうこうがしゃ、ひゃくこうがしゃ、せんこうがしゃ、えーと、このつぎーこのつぎー……思い出した!いちあそうぎ、じゅうあそうぎ、ひゃくあそうぎ、せんあそうぎ、いちなゆた……」
そこまで数えて、彼の指先が止まった。
「わかったよ、この数字は一那由他だ」
少年は顔を上げ、はにかんだような笑みを浮かべながら言った。その瞬間、自分が怯えながらもこの場にとどまっていた理由が分かった気がした。
「やったじゃないか」と心からの賛辞の言葉をかけた。彼は嬉しそうに立ち上がり、軽やかな足取りで階段を駆け上っていった。
by rei_ayakawa
| 2007-05-11 23:26
| 空想