写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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人生アトミックドロップ

前作



私の高校生活2年目もいよいよ夏休み。夏休みといえば肝試し。友達数人でレッツ肝試し!という展開になるのも、そんなに珍しいことでもない。

私や絵里はあまり乗り気じゃなかったのだけれど、オカルト好きの和美はこういうことに無駄な情熱を注いでいる。これも円滑な人間関係のためには必要なことだ、と割り切って参加することにした。

メンバーは、私、俊介、絵里、和美、武、京子の6人。町の外れにある、目的の廃寺に繋がる山道の入り口で、京子が口を開いた。

「なんかここ、凄い嫌な感じがする……」

京子は武の中学時代からの友人で、私は初対面だった。武曰く、「こいつ、霊感が強いらしいぜ」とのこと。たまにいるのだ。こういう人が。彼女の言葉で早くも絵里は怯え始めているし、和美は「やっぱりここ何かいるの?」と少し嬉しそうにしている。

「よくわからないけど、嫌な感じ……」

はいはい、嫌な感じですか。そうですか。なんかもう凄くくだらなく思えてきた。隣にいる俊介をちらりと見る。私たちが合流したあたりから、ずっとなにか考え事をしているようだ。私は小声で話しかける。

「嫌な感じ、する?」

問いかけに気づくと、彼は浮かない様子で口を開いた。

「いや……そうでもないな。そんなにたいした霊はここにはいないと思うよ」

聞く前から、わかってはいた。ただ、いつもおしゃべりな彼が、ずっと黙りっぱなしでいるのが気になったのだ。理由が聞きたかったけど、あまり人前で彼と話したくなかったので、深くは聞かなかった。どっちにしろ、京子が霊感なんてもっていないことだけは確かだ。

彼女は、俊介の存在に気がついていないのだから。

この場に6人目がいることを知っているのは、多分私だけだ。私が彼に取り憑かれたのは一月ほど前。別にこれといって害は及ぼさないのだけど、常に全裸をキープしていることと、むやみに口数が多いことが難点だった。そんな彼と会話している私も、当たり前のように霊を見ることが出来るし、感じることも出来る。というか、勝手に見えるし、感じる。別に望んではいないのだけれど。

「とにかく、行って見ようぜ。この様子だと、本当に何か見られるかもしれない」

そう言って、武はさっさと道を上り始めた。和美と京子が後に続く。絵里が不安そうにこちらを見た。

「大丈夫だよ。ここ、そんなにたいしたことない」

彼女だけは、前にちょっとしたゴタゴタに巻き込まれて私の体質を知っている。全裸男のこととか、あまり詳しいことは話してないけど。少しほっとした様子の彼女を見て、私は足を進めた。後から絵里がついてくる。もちろん、俊介も。それにしても、今日の彼は異常に静かだ。いつもこのくらいなら静かならいいのに、とか思っても、やっぱり少し気になった。

街灯なんか一切ない山道。とっくに日が暮れているため、何も出なくても少し不安になる。やがて、前を歩く京子が足を止めた。

「あそこの木の上……なにかいるよ」

その発言で武と和美は変にテンションを上げ、写真をパチパチ撮ったりしていたが、私には何も見えない。俊介に目線をやると、彼は黙って首を横に振った。なんかもう、帰って寝たい。

「あそこの茂みに女の人が」

惜しい。道を挟んで反対側に、首の取れた犬がいる。女の人は見当たらないけど。

やがて、境内に到着する。

「ここ、凄いまずいよ。もう帰ろう」

ああ、確かにまずいかも。だって、いちゃついてるもん。

「ずっと一緒にいたいと思っていたけど、まさか死んでも君と一緒にいられるなんてね。僕は幸せ者だよ」
「もし、成仏しても私たちはきっと一緒よね」
「もちろんさ。あの世で君を迎えに行くよ」

邪魔しちゃ悪いよね。結局、彼女の発言を受け入れる形で、その日は撤退になった。


「今日はどうしたの?なんか随分静かだったけど」

家に帰って、聞いてみた。俊介は相変わらず、心ここにあらずという様子だった。

「いやね……今日はなんていうか、私にとって凄く勉強になる日だったんだ。この世界には、私たちが思うよりずっと多くの『存在』が入り乱れている。本当に勉強になったよ」

なんだか、要領を得ない。

「もったいつけてないで、普通に言いなよ」

俊介は、ポリポリと頬を掻いた。

「その前に、聞きたいことがある。京子ちゃんってどんな子だった?ちなみに、外見的特長の話だよ」
「どんなって……セミロングの黒髪で、白いTシャツにジーンズ。ていうか、俊介さんも見てたじゃない」
「違うんだよ。違うんだ」

彼はゆっくりと首を横に振った。

「私には、彼女の姿が見えなかったんだ」

思考が、止まった。彼が何を言っているのか分からない。見えなかった?人間はもちろん、幽霊だって彼には見えるはずだ。それに、私たちには見えていたし、会話もした……。

「君は唐傘お化けを見たことがあるかい?」

唐突な質問だった。私は「ないよ」とだけ答えた。

「私もない。幽霊は見えても、妖怪は見えない。彼らは本当にいるのかもしれないね。私たちには見えないだけで。おそらく、彼女も我々とは違う『何か』なんだ。人間でも幽霊でもない、別の存在。まぁ、生きている人間とは普通にコミュニケーションが取れているみたいだし、別に君が意識する必要はないさ」

そう言って、俊介は寝転がった。同じ空間にいるのに、どこか交わらない存在。そうした様々なモノたちと、私たちは寄り添って暮らしている。俊介がぽつりと呟いた。

「彼女はどこから来て、何を見ていたんだろうね?」
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by rei_ayakawa | 2007-03-05 20:51 | 人生プロレス技シリーズ