写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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人生ブレーンバスター(5)

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「さて!そんなわけで諸君。これより我らは決戦の地へ向かう。由紀くん、君にもついてきてもらうよ。彼の力を100%発揮してもらうには、女子高生のギャラリーがいたほうがいいだろうからね。休日の朝8時に押し込むのも気が引けるが、状況は一刻を争うしやむをえない。さぁ、チャイムをぽちっと押してくれたまえ」
「いやぁ、僕は君みたいな真面目そうな子好きだなぁ。がんばっちゃいますよ!」

既に気分がメガトン級に重くなっているのはどうしてだろう。かたや全裸。かたや筋金入りの変態。彼らが幽霊でなかったら、私はとっくに警察に保護されているはずだ。でも、絵里を助けられるのは彼らだけ。救世主様であり、勇者様であり、王子様だ。人生に絶望できる。

絵里の母親に「近くまで来る用事があったから様子を見にきた」と伝える。こんな早くからお見舞いというのも、不自然だろうし。絵里が寝ていたら出直しかな、と思っていたけど、ちょうど起きていたらしく上がらせてもらえた。

絵里は相変わらずベッドに寝たきりだった。私の姿を見て、ちょっと不思議そうな顔をする。

「今日、学校で何かあるの?」
「あ、うん、まあね。それよりごめんね、こんな朝早く。」
「ううん。そんなことないよ。わざわざ来てくれて嬉しい」

声が弱々しく、顔に生気がない。明らかに昨日より衰弱が進んでいた。相変わらず、あの女は絵里の背後に無表情でたたずんでいる。私は脇の二人に目配せをした。

「よーし、それじゃ早速始めてもらいますか。佐伯くん、がんばってくれたまえ」
「あいっす!行くっす!」

佐伯さんが躊躇なくずかずかと近付いていく。瞬間、彼女は表情を変えずぶらりとたれ下げていた右腕を振り上げた。俊介を何度も吹き飛ばした一撃……佐伯さんは片手で受け止めていた。初めて、彼女の表情に変化が見えた。驚きの表情だ。

「ふっ……その程度の攻撃で僕を倒せるとでも思ってた?」

俊介の見込みは間違っていなかった。原動力はともかくとして、言っていることもやっていることもかっこいい。凄い。変態パワー凄いよ。

「お前のような年増女が……僕の聖域を汚すなぁ!」

調子に乗って相当酷いことも言っている。佐伯さんは彼女の後ろに回りこみ、腰に両腕を回してえびぞりの体勢で勢いよく背後に投げ飛ばした。彼女は壁を突き抜けて、その姿は見えなくなった。

「すっげー、投げっぱなしジャーマンスープレックスだよ、おい」

俊介が感懐の声をあげる。

「でも、幽霊に投げ技って意味ないだろ。壁とか床じゃダメージないんだからさ」
「へ?」

佐伯さんが間の抜けた声を出す。と同時に、壁の向こうから凄いスピードで飛び出してきた彼女に弾き飛ばされた。

「いたっ、いったぁ!」
「ほらな?あのとおり彼女は健在だ。打撃技でやりな」

何もしてないくせにやたら偉そうなアドバイスを送る俊介。

「どうしたの?さっきからぼーっとしてるみたいだけど……」

ついつい見入ってしまっていた。絵里からすれば何も見えていないのだから、変に会話が止まるのも不自然だ。うーん、難しい。

「あ、ごめん。なんか私も最近疲れ気味なんだ。でも、絵里も長引いてるみたいだね。大変そうだよ」

そんなことを言っている間にも、絵里の背後では彼女の命を懸けた凄絶な打撃戦が行われている。注目するなという方が無理だ。私は会話を成立させるために全神経を集中した。脇からは「いけ!今だ!目を狙え!」などという声援が聞こえてくる。あーもー、うるさい。

「死ね……」

低い、唸るような声が聞こえた。背筋に寒気が走る。聞いてはいけないものを聞いてしまった気がした。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえぇぇぇぇぇぇぇ!」

部屋が勢いよく揺れはじめた。

「地震!?」

絵里が怯えた声をあげる。私はどうしたらいいのか分からず、俊介の方を見た。俊介も焦っているようだった。

「やばいな、完全に怒らせちまったらしいぞ。佐伯くん、早く蹴りをつけるんだ!」
「あいあいさー!」

佐伯さんが再び殴りかかる。彼女の顔を直撃したけど、ひるむ様子はなかった。逆に佐伯さんの首を掴み、そのまま締め上げる。

「ひっ、ひぃいいいいいい!」
「佐伯くん!ちっ、私も行くしかないか!」

俊介も飛び掛るが、片手で跳ね飛ばされる。棚から本が散らばり、そのうちのいくつかは空中を飛び回っている。ぬいぐるみが宙に浮き、椅子はガタガタと音を立てながら部屋を動き回っていた。目覚まし時計が針の位置などお構い無しにけたたましく鳴り出す。

「なに?なにがどうなってるのよぉ!」

絵里は枕を頭に押し付け、完全にパニック状態になっていた。私ももう、なりふり構っていられない。

「俊介、大丈夫!?」
「私は大丈夫だ。それより、佐伯くんがまずいぞ!」

見ると、つかまっている佐伯さんの体がノイズの入ったTV画面の様にぼやけてきている。このままだと、彼はどうなってしまうのだろう?成仏?消滅?駄目だ、いくら変態でもこのままほうっておけない。第一、ここで彼がやられてしまったら絵里を助けることが出来ない。打つ手は一つ。私は、神様に祈る気持ちで声を張り上げた。

「佐伯さん、お願い!がんばって!」

その一瞬で佐伯さんの体は一気に元の鮮明さを取り戻し、相手の腕を振り払った。

「女子高生が僕を……この僕を応援!ムッハー!」

凄い!変態って凄い!期待通りなんだけど凄い!

「よっし!由紀くん、いいぞ。ベストな判断だ!」

再び佐伯さんが彼女と殴り合いを始めた。でも、やっぱり佐伯さんが押され気味だ。俊介も加勢するけど、飛び掛るたびに一瞬で弾き飛ばされて全然勝負に入れない。これは俊介がダメというより、変態が凄いのだろう。

視界の片隅に、いやなものが入った。

宙を飛行する椅子。天井にぶつかって、落ちる。その下には、ふとんに包まって怯えている絵里がいた。

気がつけば、頭痛がする。生暖かいなにかが、視界をさえぎる。私は絵里に覆いかぶさっている。ふとん越しに、彼女が震えているのが分かる。大丈夫。大丈夫だよ。私が守るから。

私は、ゆっくりと身を起こす。ふとんに赤い染みが出来ている。俊介がなにか言っている。大丈夫、心配ないよ。佐伯さんはうつ伏せに倒れている。まかせっきりにしてごめんね。ありがとう。

『あの女』がこちらを睨みつけて……。

「ふざけんな!」

腹の底から声を出す。

「なに死人の癖して未練たらしく人様に迷惑かけてんだよ!あんたなんかに絵里や、俊介や、佐伯さんを殺されてたまるか!とっとと消えろクソババア!」

全力で拳を握って、殴りつけた。空を切る。幽霊だもんね。そりゃとーぜん。壁に衝突。そのまま床に。息が詰まる。体中が痛む。……ああ、ごめん、私じゃ何も出来なかったよ。

「いや……君のおかげだよ、由紀くん。私がこうして彼女の動きを止められるのはね」

ぼやけていた世界が急にもとの姿を取り戻した。意識が鮮明になり、物音が聞こえる。見上げると、『あの女』の背後に立った俊介が、彼女を羽交い絞めにしていた。彼女は必死でもがいているが、振りほどくことが出来ない。信じられない光景だ。

「幽霊の『力』ってのは執念とか、執着によって決まるらしい……ということには感づいていたけどね。今の君の行動、ぐっときたぜ。なにがなんでも私たちは勝つ。そう思わせるに十分だったよ。さて、佐伯くん」
「は……はい!」

彼も既にその身を起こしている。

「彼女にばかりいいところとられるわけには行きませんからね。マニアパワー見せてやりますよ!」
「あれ?人類愛パワーじゃないのかい」
「女子高生愛パワーです!」
「よし、頼むぞ!」

佐伯さんは『あの女』にゆっくりと近付き、頭部を両手で包み込むようにして掴む。『あの女』の顔に、初めて怯えの表情が浮かんだ。

「打撃じゃ埒が明きませんからね……。願わくは、成仏してください!」

佐伯さんの両腕に一気に力が込められたのがわかった。『あの女』は目と口を大きく見開き、血の涙が大量に流れ出す。やがて白目をむき始め、眼球が光を失い、黒ずんでいく。

「はっ!」

気合の掛け声とともに『あの女』の頭部が砕け散り、まるで霧のように四散した。彼女の体も、虚空へと消えていく。宙を飛び回っていた物体が、引力に惹かれて落下していく。ベッドの上にも本やぬいぐるみがいくつか落ちて、絵里が小さい悲鳴を上げた。目覚まし時計は音を止めた。部屋がすっかり静かになったころ、『彼女』は既に消えていた。まるで、最初からそこにいなかったかのように。


絵里がおそるおそるふとんから顔を出した。

「もう……終わったの?」

全て終わったよ。安心して。

「うん。大丈夫だった?」
「……大丈夫じゃない」

私を見る絵里の顔から、血の気が引いている。急激に不安が胸の中に湧き上がってきた。

「どうしたの?どこかケガした?」

聞くと、絵里は首を振って答えた。

「私は大丈夫。でも……由紀が大丈夫じゃない」

言っている意味が良く分からなかった。

「ていうか、救急車!救急車呼ばなきゃ!」

あ。

顔を触ると、べっとりとした赤い液体が手のひらを染めた。人生初救急車だった。
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by rei_ayakawa | 2007-02-17 19:51 | 人生プロレス技シリーズ