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写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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人生ブレーンバスター(4)

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「名前?私の名前か」

家を出てちょっと歩いたところで、色々気になることはあったけど、とりあえずそれから聞いてみた。

「うん。名前知らないと呼びにくいし」
「いやぁ、嬉しいね。少しは私にも関心を持ってくれたってことか。俊介だ。福浦俊介」
「わかった。今回は本当にありがとね、俊介さん」
「まだ礼を言うのは早いな。また失敗するかもしれないんだぜ?」
「いいの。とにかく、ありがとう」

彼は少し困惑の色を顔に浮かべたが、すぐに「ふん」と鼻を鳴らして「まぁ、なんでもいいけどね」と言った。

「で、何で制服じゃなくちゃいけないの?」

言われたとおりに着替えてきたけど、この格好じゃないといけない理由はまだ聞いていない。俊介は口元に手をやり、少し考え込むようにした後、話し始める。

「そうだな。順序だてて話そう。昨日君と別れた後、私なりに色々考えてみた。物事には必ず因果関係というものがある。私が死んだ後もこの世に残っているのには理由があるのだろうし、それは彼女においても同じだ」

『彼女』とはもちろん、絵里に取り憑いている霊のことだろう。

「彼女がここに残っている理由を取り除けば、絵里ちゃんを救えるんじゃないかと考えてね。それを知るために、彼女と会話してみようと思ったんだ。で、もう一回絵里ちゃんの家に乗り込んでみたはいいが、実に彼女は無口な人だった。その前に私が一方的に殴りかかっているわけだから、冷たくされるのも当たり前と言えば当たり前なのだがね。だけど、どうやらそういう問題でもないらしい。私が近付いてもまるで反応を見せないし、話しかけてもひたすら我関せずといった面持ちだった。彼女はとてもオートマティックな人なのさ」
「オートマティック?」
「うん。多分、生きている人間に対する恨みの念だけで彼女はあそこに存在している。彼女自身に『意識』と呼べるような物はないんだね。そこまできて、これはちょっと無理だ、と思ったわけだよ。だから、方向性を変えることにした。つまり、毒をもって毒を制すことにしたのさ」

私の反応をうかがうように、いったんそこで言葉を切った。

「勿体つけた喋り方をするね」
「癖なものでね。要するに、同格の霊をぶつければいいんだって発想に至った。彼女に匹敵する執念を持ち、なおかつその方向性が対立するような相手をね。もちろん、生半可なやつでは彼女の相手は務まらない。そこら中を探し回ったよ。そしてふさわしい人材を見つけた」
「もう見つけてあるんだ?」
「見直したか?その調子でどんどん見直してくれ。彼はこの件に協力することを快くOKしてくれたが、ちょっとした条件をつけてきた。その場に君が立ち会うってことだ」
「確かに、私がお願いしてるんだもん。それは当たり前のことだと思う」

一瞬困ったような顔をした。

「いや、まぁ、確かにそれもあるのかもしれないが、おそらく彼の意図は別のところにある。なんにしろ、深く気にすることはない。重要なのは、彼に最高のコンディションで戦いに挑んでもらうことなのだからね」

妙に歯切れの悪い言い方だった。よく考えたら、最初の質問への答えにもなっていない。

「どういう……」
「お、いたいた。彼だ。おーい!」

私たちの前方、絵里の家の前に人影が見える。いや、幽霊だから影は見えないのだけど。人影はこちらに気がつくと、軽く手を挙げて挨拶した。

「えぇ?」

私は思わず声を上げてしまったけど、世界から戦争がなくならないのと同じくらい仕方のないことだとは思う。成人病一歩手前の良く育った体、べったりと張り付いた髪の毛、センスのかけらも感じないメガネ、チョビヒゲ、首からぶら下げているカメラ、360度どこから見ても頼りがいのかけらもないようなルックスだった。思わず聞きなおしてしまう私。

「あの人?」
「あの人」
「そっか……えと、人は見た目じゃないよね!」
「見た目も重要だけどな。彼に関して言うなら、決して見た目で判断してはならないと思うぜ。君だって感じるだろ?」

確かに、感じる。じめじめとしたようなべっとりとしたような緊張感が、私を包んでいた。かなりの力を持っていることが分かる。俊介はその幽霊に近付き、語りかけた。

「やぁ、待たせたね。こちらが熊倉由紀くん。木崎絵里の友人で、今回の件の依頼者だ。由紀、彼は佐伯裕也くん。今回、我々のために一肌脱いでくれるそうだ。しっかり感謝しとけよ」

促されるままにお辞儀する。

「はじめまして、熊倉です。よろしくお願いします」
「あ、いや、その、は、はじめまして!」

どもりつつ言ったあと妙にもじもじして、軽く息を吐き出す。なんなんだろう、この人は。行動が読めない。どうしたらいいのか良く分からない私を尻目に、彼は再び口を開いた。

「あ、あなたの友人は僕に任せてください。さっき覗いてみましたけど、あんな根暗そうな女に、僕の人類愛パワーは負けませんよ!」

人類愛パワー……?どういう人なんだろう。これでも実はもと警察官で、死んでからも市民の安全を守っているとかそういう話だろうか。

「人類愛じゃないだろ?佐伯くんは一流の女子高生マニアなんだ。生前は盗撮とかを主に活動していたらしいが、決して本人に手を出さないことを誇りとしていたらしい。まぁ、その辺のこだわりは私には良く分からんがね。今回は彼の愛しき女子高生の危機とあって勇んで協力してくれることになったわけだよ。本物の女子高生と喋らせてくれたら、という条件付だったが。君に制服に着替えてもらったのは、彼のたっての希望だからさ」

その時の私は、もう、なんとコメントしたらいいのか分からないといった表情をしていたと思う。

「そ、そういうことを彼女の目の前で言わないでくださいよ!」
「なんで?隠す必要ないじゃん」

いっそのこと、隠しておいて欲しかった。
by rei_ayakawa | 2007-02-14 19:43 | 人生プロレス技シリーズ