写真の子は恥ずかしがりやさんなので、これ以上出てきてくれません。


by rei_ayakawa
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人生ブレーンバスター(3)

(1) (2)





「どうやら、幽霊になってからの強さは怨念の強さとかそういうものに比例するらしいね。生前の腕力は全然関係ないみたいだ」
「つまり?」
「私じゃ絶対に無理だ。ありゃ勝てないよ」

帰り道、その発言を聞いて露骨に肩を落としてしまったけれど、これに関しては誰も私を責められないと思う。これで、一人の友人を失うことが決まってしまったのだから。

「いや……なんていうか、すまない」

全くだ、と私は思う。最初から厚かましいし、言ってることは適当だし、こんな男の言うことに変な希望を持ってしまったのが間違いだったのだ。くだらない。

「本当だよ。少しでも期待した私がバカでした」

言いながら歩く速度を速める。

「待て、まだあきらめるなよ。何か方法がないとも限らないわけだしさ」

私の中で、何かが爆発したことは確かだ。

「うるさいな!どうせ無理なら最初から余計なこと言わなけりゃよかったんだ!いいからもうついてくるな!」

気がつけば、走り出していた。家の玄関に辿り着いたところで振り返ると、もう彼はいなかった。


その日の夜はあまり眠れなかった。彼がいた頃も落ち着かなくてなかなか眠れなかったけど、今回は更にだ。彼は確かに厚かましいし、言ってることも適当だった。存在自体が嫌がらせみたいな男だったけど、今回の行動は決して嫌がらせのためにしたことではない。そのくらいのことは私にも分かる。

私は何でこんなに悔しがってるんだろう?何も今までと変わるところなんてない。悪霊に取り憑かれるのも、その人の運命。しかたないよね。私に出来ることなんてない。今までもずっと、そう割り切ってきたはず。でも、視界が滲む。

本当は、割り切れてなんかいなかったんだ。

絵里とは高校に入ってからの付き合いだ。1年の時から同じクラスで、あまり人と関わろうとしなかった私にも積極的に話しかけてくれた。世の中、波長の合う相手というのはいるみたいで、基本的に一人でいるのが好きな私も、彼女と話している時は楽しかったし、安心できた。色々と相談したり、されたり。たまにケンカもした。2年になっても同じクラスだったときは、二人して喜んだりもした。なんか、いかにも『友達』って感じ。青くさくて死にそう。

嫌だよ。やっぱり嫌だ。

「まだあきらめるな」と彼は言った。思えば、今までの私はずっとあきらめ続けていた気がする。幽霊をどうこうするなんてできないよ。無理に決まってるじゃないか。そんな風に。今回だって、私自身は何もしていない。彼にあんなことを言う権利なんか、私にはないんだ。心の中で、何度も謝った。


休日だと言うのに、朝の7時に目が覚めた。寝不足で頭が重いけど、不思議と意識ははっきりしていた。自分の決意を再確認する。もう、あきらめない。私が絵里を救ってみせる。

寝ている気分でも状況でもなかったので、朝食を食べながら、今後の行動に思考をめぐらす。やっぱり、本職の霊媒師とかに頼むとかしたほうがいいんだろうか。でも、絵里の両親に「絵里は悪霊に取り憑かれている」なんていっても信じてもらえないだろうし、本人に言ったって駄目だろう。大体、TVなんかで見てると彼らの9割はインチキだ。あまりあてになりそうにない。

とりあえず、図書館で情報収集でもしよう。悪霊に対する対処法が、少しは分かるかもしれない。そう思って玄関のドアを開けたらいきなり全裸の男が目の前にいるんだから参ったね、もう。

「おおっと、おはよう!もう起きていたのか。あれから私なりに色々行動してみたんだが、ちょっとした光が見えてきたぜ。君にも協力して欲しいことがある。絵里ちゃんのために、一肌脱げるか?」

あまりにもいつもの調子でまくし立てるので、私はすっかり面食らってしまった。しばらくあっけにとられた後、「えと、全裸になれってこと?」などと半ば意味不明の受け答えをしていた。何を言っているのか私は。

「はっ!とっさにその返しが思いつくあたり、やっぱり君は素晴らしいね。実に知性を感じるよ」

なんか褒められた。

「まぁ、そこまでする必要はないが、その格好はまずいな。とりあえず、制服に着替えてきてくれたまえ。これから絵里ちゃんの家に向かう。詳しいことは道すがら話すよ」
「制服?」
「そう。こっちにも色々と事情があるのさ。さぁ、行った行った!」

なんだかよくわからないけど、とりあえず言うとおりにした方が良さそうに思えた。相変わらず勢いよく話す人だ。昨日あれだけボコボコにやられていたのに、何故だか妙に頼もしく感じる。「ちょっと待ってて」と言って家の中に踵を返し、すぐに足を止めて振り返った。

「あの」

怪訝そうな顔をする彼。どうしてもこれだけは言っておかないといけない気がした。

「昨日はごめん。酷いこと言った」

目を見て、言った。彼は一瞬とても優しげな表情になり「気にするな」とだけ。

ああ、この人はこんな表情も出来るんだ。

大人だな、と思った。よく考えたら、外見からして私よりずっと年上だ。今まで意識しなかったのが不思議なくらい。多分、30歳くらいなのかな。

私はまだ、彼の名前も聞いていないことに気がついた。
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by rei_ayakawa | 2007-02-11 20:06 | 人生プロレス技シリーズ