Ⅲ
2006年 04月 15日
雨の中、私が当てもなくぶらぶら道を歩いていると、パン屋の店先で一人の若い女性が雨宿りをしていた。
急に降り出してきたものだから、傘を持っていなかったのだろう。私は彼女に近付いて、傘を差し出した。
「お嬢さん、これをお使いなさい」
彼女は答えた。
「ふん、そんな使い古された手にのせられるほど、私は安い女じゃないわ」
この女は何を言っているのか。
どうやら、私のことをナンパ野郎か何かと勘違いしているらしい。多少顔がいいからって、随分と自意識過剰な女のようだ。
「大丈夫、私もあなたみたいな人に下心を持って近付くような安い男じゃありませんよ。いいから、これをお使いなさい」
彼女は答えた。
「そんなはずないわ。男はみんな体ばっかり。真実の私を見てくれる人なんて、誰もいやしないのよ」
なるほど。自意識過剰で自己中心的で被害妄想が強い上にバカだ。きっと辛い過去があったのだろうが、そんなことは私の知ったことではないので、これ以上相手にしないでその場を去ることにした。しかし、私が彼女に背を向けて歩き出そうとした瞬間、彼女が唐突に叫んだ。
「私をここにおいていくの!?」
もう、頼むから私にかまわないでくれないか。
私は彼女に声をかけたことを心の底から後悔したが、今となってはいくら悔やんでも取り返しがつかない。私に出来ることは、目の前の現実と向き合って打開策を考えることだけだ。まずは、傘で彼女の喉元を突くことからはじめるか。いや、暴力はよくない。女性に暴力を振るうなどと、男としてあるまじき行為だ。あくまで紳士的に振舞わなければならない。私はにこやかな笑顔で、彼女に質問した。
「傘で喉元を突かせていただいてもよろしいですか?」
彼女は答えた。
「ダメ」
同意してもらえば大丈夫かなと思ったのだが、私のもくろみは見事に失敗してしまった。よく考えれば、たとえ同意を貰っても暴力は暴力なので何も大丈夫なことはない。そんなことすら判断できないくらい、私はイラついていた。
「傘を受け取る気がないのなら、私がここにいる意味はないでしょう。すみませんが、お先に失礼しますよ」
彼女は言った。
「あなたも私を一人にするのね……。男なんてみんなそう。最後はいつも私の元を去ってしまう……。私は一人ぼっちだわ」
それはあなたの性格が悪いからですよ、マドモアゼル。
彼女が完全に自分の世界に浸ってしまっている隙に、私は早足でその場を離れた。しばらく歩くと、背後から彼女の声が聞こえた。
「楽しかったよ、ありがとー!」
私が振り向くと、彼女はこちらに笑顔を向けて手を振っていた。そしてバッグの中から折り畳み傘を取り出してそれを開くと、雨の中を私と反対方向に歩いていった。
私はその場に立ち尽くしていた。
急に降り出してきたものだから、傘を持っていなかったのだろう。私は彼女に近付いて、傘を差し出した。
「お嬢さん、これをお使いなさい」
彼女は答えた。
「ふん、そんな使い古された手にのせられるほど、私は安い女じゃないわ」
この女は何を言っているのか。
どうやら、私のことをナンパ野郎か何かと勘違いしているらしい。多少顔がいいからって、随分と自意識過剰な女のようだ。
「大丈夫、私もあなたみたいな人に下心を持って近付くような安い男じゃありませんよ。いいから、これをお使いなさい」
彼女は答えた。
「そんなはずないわ。男はみんな体ばっかり。真実の私を見てくれる人なんて、誰もいやしないのよ」
なるほど。自意識過剰で自己中心的で被害妄想が強い上にバカだ。きっと辛い過去があったのだろうが、そんなことは私の知ったことではないので、これ以上相手にしないでその場を去ることにした。しかし、私が彼女に背を向けて歩き出そうとした瞬間、彼女が唐突に叫んだ。
「私をここにおいていくの!?」
もう、頼むから私にかまわないでくれないか。
私は彼女に声をかけたことを心の底から後悔したが、今となってはいくら悔やんでも取り返しがつかない。私に出来ることは、目の前の現実と向き合って打開策を考えることだけだ。まずは、傘で彼女の喉元を突くことからはじめるか。いや、暴力はよくない。女性に暴力を振るうなどと、男としてあるまじき行為だ。あくまで紳士的に振舞わなければならない。私はにこやかな笑顔で、彼女に質問した。
「傘で喉元を突かせていただいてもよろしいですか?」
彼女は答えた。
「ダメ」
同意してもらえば大丈夫かなと思ったのだが、私のもくろみは見事に失敗してしまった。よく考えれば、たとえ同意を貰っても暴力は暴力なので何も大丈夫なことはない。そんなことすら判断できないくらい、私はイラついていた。
「傘を受け取る気がないのなら、私がここにいる意味はないでしょう。すみませんが、お先に失礼しますよ」
彼女は言った。
「あなたも私を一人にするのね……。男なんてみんなそう。最後はいつも私の元を去ってしまう……。私は一人ぼっちだわ」
それはあなたの性格が悪いからですよ、マドモアゼル。
彼女が完全に自分の世界に浸ってしまっている隙に、私は早足でその場を離れた。しばらく歩くと、背後から彼女の声が聞こえた。
「楽しかったよ、ありがとー!」
私が振り向くと、彼女はこちらに笑顔を向けて手を振っていた。そしてバッグの中から折り畳み傘を取り出してそれを開くと、雨の中を私と反対方向に歩いていった。
私はその場に立ち尽くしていた。
by rei_ayakawa
| 2006-04-15 20:39
| 空想